「お前、こないだ俺がケガしたの知ってる?」
去年の12月中旬、まるで子供が少しばかり自慢気に傷口を見せるかのように、殿がおもむろにこう切り出されたのです。そのケガとは? 12月14日に生放送された「THE MANZAI 2014」オープニングの“パンクバンドコント”中に負ったものであり、殿はギターを叩きつけてぶち壊す際、指先をバックリと切ってしまったのです。
バンソウコウを貼った指先をこちらに見せながら、
「これ、医者に『縫わなきゃダメだ』って言われたんだけどよ。とりあえずバンソウコウ貼ってごまかしてたらくっついちまったんだよ。だけど指先だから、痛てーのなんのって」
と、顔を思いっきり歪めてケガの説明をされました。報告を受けたわたくしがすぐさま、「殿、夏も足の指をケガされてましたね」と返すと、殿は先程よりも少し大きな声になって、こう続けたのです。
「そうだよ。あん時は足の指の爪が剥がれたんだよ。だけどあれもほっといたら治っちまったんだよな」
夏のケガとは? 8月にやはり生放送された「27時間テレビ」の中で、「火薬田ドン」といったキャラに扮した殿が、プールに叩き落とされる際、足の指がセットに引っかかり、足の親指の爪を思いっきり剥がしてしまった事態のことです。この時も殿は後日、「お前、俺の足の指のケガ見た?」と、少しばかり誇らしげにアピールされると、足早に靴下を脱ぎ、その傷口を露呈されていました。
67歳にして、まだまだケガをされるほど“ドタバタ”ができる殿、素敵です。そして、そのケガを無邪気に弟子にアピールされる殿、さらに素敵です。
そんな素敵な現状はさておき、殿のケガで、今でも時折思い出す、〈あれはいったい何だったんだ?〉といった思い出を1つ──。
10年程前、わたくしが殿の付き人を務めていた時のこと。テレビ局の楽屋に入られた殿は、届いていた“菓子折り的なお届け物”の包装紙をご自身で開封しようとした際、指先を切ってしまったのです。
「痛っ!」と、小さく漏らした声に反応して振り向くと、殿の右手人差し指の先が赤く光っていました。指を口にくわえて止血する殿に、わたくしが車に常備してある救急セットを取りにいこうと、「殿、バンソウコウと消毒液を取ってきます」と告げ、楽屋を飛び出そうとした瞬間です。
「いいよ。これで大丈夫だ」
そう発した殿は、普段使用している“超高級香水”をいきなり手に持つと、おもむろにその香水を指先の傷口へと振りかけたのです。
〈えっ、香水で消毒? そんなやり方あんの?〉そんなわたくしの心の叫びなどお構いなしに、殿は、
「く~染みるな~」
と、一度だけ苦悶の声を上げると、もうその後はまるで何もなかったように、途中であった開封作業を再開されたのでした。傷口に香水‥‥。いったいあれは何だったのか? 今でも大いに謎です。