数ある危険ドラッグの中でも“最凶”と言われる新種の危険ドラッグ「ハートショット」を吸引した使用者が日本の各地で惨事を引き起こしている。戦慄の殺傷力を秘めた劇薬の正体を追う。
東京都内では走行していた乗用車がガードレールに衝突。運転席で意味不明の言葉を叫んでいた男が道交法違反容疑で逮捕された。
横浜市では自宅でうつ伏せの状態で悶え苦しんだ45歳の男が死亡。横須賀市でも座ったままの姿勢で苦悶の表情を浮かべた22歳の女の遺体が発見された。
乗用車に置いてあった男の所持品やいずれの遺体のそばからも危険ドラッグ「ハートショット」が発見されたのだった──。
この新種の薬物は全国に出回り、9月中旬から約2週間で9人の使用者が死亡している。10月になっても被害はおさまらず、6人が命を落としている。危険ドラッグ乱用者の間で「最凶の殺人ドラッグ」として、今最も恐れられているのだ。なぜここまで驚異的なスピードで死者を増やし続けるのか。
ハートショットの成分を分析した、国立精神・神経医療研究センター依存性薬物研究室の舩田正彦室長が説明する。
「大麻と似た成分の合成カンナビノイドという種類の薬物が含まれています。幻覚作用が強まるこの化学物質が大量に含有されている危険性があります。直接的な死因は明確になっていませんが、その毒性、薬物依存に陥る可能性は、実に大麻の20倍くらいです。死に至らなくても、運動機能に影響を与えるため、正常な運転ができなくなり、運転中に人を巻き込むことも考えられます」
実際に9月中旬からの1カ月で、この最凶ドラッグ使用者の交通事故件数は40件を超えた。北海道札幌市内のハーブ販売店でハートショットを販売したところ、わずか6日で購入者1人が心肺停止となったほか、9人が意識障害で緊急搬送されている。
「パッケージが同じでも、含まれている成分が新しくなっている可能性があります。死亡に至った製品が、我々が解析したハートショットなのか保証はなく、より強力な製品が出回っていることも十分にありえます」(舩田室長)
11月6日、警視庁はハートショットなどをネット上で販売していた国内と海外の49サイトに対して、削除要請を行うなど、ようやく対策に動きだした。警視庁が管轄する都内販売店の現状を東京都福祉保健局薬務課担当者が明かす。
「6月に68店舗ありましたが、10月時点で半分以下に減りました。まだそれだけ店が存在するということです。東京都や国が指定薬物にすると、化学構造を少し変えて販売され、いたちごっこの状態が続いています。危険ドラッグを使用するのは、毒を飲んで人体実験しているようなもの。未知の化合物を体の中に入れるのは信じられない行為であり、病院に担ぎ込まれても治療方針がわからないことが多いのです」
所持しているだけで、薬事法違反容疑で逮捕されるケースも増えてきている。