「誠に遺憾。市の名を汚す行為だ。サッカーの街を標榜する市の政策や、サッカーを愛する市民にとって大きな問題だ」
9月26日の定例記者会見において清水勇人さいたま市長は、このように厳しく批判した。8月2日に名古屋市で行われた天皇杯4回戦(対名古屋グランパス)でJ1浦和レッズのサポーターたちが暴徒化した事件についてである。
現地で取材をしていたスポーツ紙記者が、その時の様子を振り返る。
「試合終了後、両チームのサポーターたちからヤジが飛び交い始め、そこから0対3で敗戦した浦和レッズの一部サポーターたちが罵詈雑言を叫びながら、仕切りの柵を飛び蹴りで破壊してピッチに乱入。さらには制止に入った警備員に突進して投げ飛ばすなどの狼藉行為に及んだ上、名古屋側の応援席に侵入して大乱闘に発展しました。名古屋の横断幕を引き剝がし踏み潰すなど、本当にやりたい放題でしたね。周囲からは悲鳴や絶叫が上がり、十数台のパトカーや救急車も出動するなど、会場は阿鼻叫喚と化しました」
しかも、事件の3日後に浦和レッズの田口誠社長と須藤伸樹マーケティング本部長がオンラインで会見を行い、「暴力は振るっていない」と明言したことで、さらに風当たりが増すことに‥‥。
「暴力行為の一部始終はすぐにSNS上で拡散していたにもかかわらず、それを『なかった』と言い切ってしまうフロントの危機管理のなさ、厚顔ぶりにも非難が殺到し、四面楚歌となりました」(Jリーグ関係者)
国内では前代未聞のサポーターによる暴力行為の発覚を受けて、天皇杯を主催する日本サッカー協会(以下、JFA)は臨時の理事会を招集。〈サポーター17人を無期限の入場禁止〉〈サポーター1人を5試合の入場禁止〉とした。さらに、JFA規律委員会が審議を重ね、9月19日に浦和レッズに対して〈来年度の天皇杯への参加資格剝奪〉の処分を課した。
ところが、この決定に関してサッカー関係者や他チームのサポーターたちから〝大甘処分〟だと大ブーイングが沸き起こっているというのだ。前出・スポーツ紙記者が語る。
「浦和レッズのような国内の強豪クラブにとって一番の目標は、Jリーグ・チャンピオンです。一方で、天皇杯のチケット収入は、基本的にはJFAに入る仕組みになっているため、各クラブにとって収益面でのうまみは、それほどありません。むしろ、天皇杯に出場することはクラブにとって負担でしかない。Jリーグ制覇を目指している強豪クラブは、天皇杯の試合には1.5軍のメンバーで臨むなど、その優先順位は決して高くありません。だから、サッカー関係者の間では、来シーズンの浦和レッズは、Jリーグの試合に専念できるため、今回の処分はまったくのノーダメージという見解が大半を占めています」
JFAは、今回の暴行事件について「日本サッカー史上、過去に類を見ない極めて危険かつ醜悪なもの」と断じ、さらに「浦和レッズのサポーターが引き起こした懲罰事案はリーグおよび天皇杯を含めて2000年以降だけでも11件にものぼる」と、常習性を含め問題視した上での対応だとしているが、現実は「浦和レッズに忖度した、形式だけの処分にすぎない」(前出・Jリーグ関係者)という厳しい声が上がる。そこには、日本サッカー界のヒエラルキーが深く影響しているというのだ。
「最近もサッカー解説者の松木安太郎さんが元日本代表の鈴木啓太さんのYouTubeチャンネルに出演し、そのことを暴露して話題になっていましたが、日本のサッカー界には通称〝丸の内御三家〟と呼ばれる派閥が存在しているんです。その1つが三菱重工業(浦和レッズの前身)派閥で、これまでにJFA会長を何人も輩出し、今もJFAの要職に名を連ねるなど、絶大な影響力を持っています。そのため組織の力学が働いて、今回のような大甘な処分になったのでしょう」(前出・Jリーグ関係者)
今年はJリーグ30周年のメモリアルイヤーだが、創設期のような人気を回復するためには、まずは身内に甘い体質を見直すべきなのではないだろうか‥‥。