今年の投高打低は異常すぎる。3割打者が両リーグで1人ずつになるかもしれない。普通ならリーグで、6、7人は3割をクリアする。それが一流打者の証明になっていた。ところが今や、3割の大台に乗せるだけで首位打者を狙えるほどになった。DeNAの宮﨑の3割2分台は両リーグで断トツ。パ・リーグはオリックス・頓宮が3割7厘で打率1位のまま、左足甲の疲労骨折で登録抹消となった。シーズン規定打席に到達していて、このままならパ・リーグ史上最低打率の首位打者が誕生する。
パ・リーグで最も低い打率でタイトルを取ったのが1976年の太平洋・吉岡悟の3割9厘やった。僕より2つ年下の吉岡がラッキーやったのは、生涯で3割をクリアしたのが1度だけで、規定打席到達もその年と翌年の2度だけ。僕はシーズン3割を7回記録したけど、首位打者には縁がなかった。
74年にはキャリアベストの3割2分7厘を残したけどリーグ3位で、首位打者は張本さん。78年には打率3割2分5厘で途中まで1位やったのに、覆面パトカーが現れた。9月に規定打席に乗せた近鉄・佐々木恭介が3割5分4厘で首位打者をかっさらった。だけど盗塁王とは違って、強がりやなしに首位打者のタイトルに執着心はなかった。それでも運があれば1度ぐらいは取れたのにな、と思う。
頓宮も吉岡と同じで、打率3割も規定打席到達も今年が初めて。去年が2割2分6厘やから、大躍進の1年になった。今年はFAで森友哉が加入し、本職の捕手ではなく、一塁やDHでの出場となった。バットで生きていくしか道がなくなった状態で見事に存在感を発揮した。コロコロとスタメンを変えるのが好きな中嶋監督にも使い続けてもらって、チームの3連覇に貢献。開幕前は本人もまさか打撃タイトルを取れるとは思ってなかったはずやで。
岡山の実家が隣同士という山本由伸にも感謝しなアカン。防御率1点台前半で無双状態の投手と対戦しなくてええんやから、大きなアドバンテージになる。オリックスは由伸だけでなく、宮城、山下舜平大ら強力な先発陣が揃っていて、頓宮にしてみたら「味方でよかった」となる。早々に優勝を決めたのも大きい。激しい首位争いをしていたら多少無理してでも出場を続けていた可能性がある。
最大のライバルはソフトバンク・近藤。打率3割の常連やけど、今年は本塁打と打点の2冠もかかっている。本塁打も30本未満で決着しそうな低い争いで、長距離打者ではない近藤にとってはそうそうないチャンスになっている。だけど、ターゲットを首位打者に絞ることはないと思う。チームも最後まで2位争いが続いていて、個人タイトルに専念する余裕もないはず。
それにしても打率3割そこそこ、本塁打30本未満、100打点以下で三冠王が狙えるなんて、ほんまおかしい。確かに、昔より投手のレベルは上がっている。150キロは投げて当たり前で、変化球の球種も多い。佐々木朗希のように、軽く160キロを投げる投手もいる。とはいえ、フライを上げすぎやし、落ちる球には簡単に手を出す。かと思えば甘い球を簡単に見逃してしまう。軽いバットを振り回す選手が多いけど、速いストレートを打ち返すには重たいバットでレベルスイングに叩く方がいい。サッカーみたいな1-0の試合が多すぎるのは問題やで。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。