来年度、政府(内閣府)は「首都直下地震被害想定」の見直しに着手する。
見直しは2013年度以来、およそ10年ぶりとなるが、中でも防災専門家らが注目しているのは、今回の見直しで「タワーマンション」をはじめとする高層建築物が「木密地域(木造住宅密集地域)」とともに、最重点検討項目に挙げられている点だ。
マグニチュード7クラス、最大震度7の首都直下大地震は、今後30年以内に70%の確率で発生するとされている。とりわけ木密地域での火災や延焼による被害は、予測される死者数も含めて深刻な問題となっているが、タワマンに象徴される高層建築物については「直下型地震には極めて強い建物」と喧伝されてきた経緯がある。
にもかかわらず今回、タワマンが最重点検討項目に急浮上してきた背景には、どのような事情が横たわっているのか。地震工学の専門家が解説する。
「政府の発表を素直に読めば、発生が差し迫っている首都直下地震において、タワマンには木密地域と同等の深刻な脅威が存在する、ということになります。実は近年、地震工学や建築工学などの専門家の間で、南海トラフ巨大地震で首都圏のタワマンなどを大きく揺らす長周期地震動とはまた別に、直下型の大地震でタワマンを倒壊させる未知のリスクが取り沙汰されている。来年末にも取りまとめられる新被害想定に新たなリスクが盛り込まれるとすれば、まさにエポックメーキングな話になるでしょう」
一方で、政府の本気度を疑問視する声もある。防災専門家が指摘する。
「揺れによるエレベーターの停止、高層階に取り残される住民など、高層マンションに潜むリスクについては、これまでも縷々指摘されてきました。しかし、建物そのものが倒壊してしまえば、あらゆる対策は意味を失ってしまう。問題は、政府がどこまで本気で踏み込むかですよ。専門家が指摘する重大なリスクから目をそらし、新被害想定がありきたりの内容にとどまるとすれば、真実はまたぞろ闇の中に封印されてしまうことになるでしょう」
いずれにせよ、タワマンに大地震で倒壊するリスクが存在することは、紛れもない事実だ。ならばそれらの未知のリスクとは、具体的にどのようなものなのか。
次回以降は、そのメカニズムに迫りたい。(つづく)
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。