ジャニーズ事務所の2回目の会見のウラで、とんでもないことが起きていた。
冬のインフルエンザ本格シーズンを前に、咳止め薬や解熱剤の処方薬が圧倒的に不足しているのだ。ジャニーズ事務所会見と同日、医薬業界誌「医薬経済ONLINE」が国内のジェネリック製薬企業の事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)を報じた。詳細は同誌の有料記事を参考にしてほしいが、ジェネリック製薬企業が事業再生ADRになるのは、昨年の日医工に続いて2件目だ。
ジェネリック医薬品を作る中小企業の経営破綻と処方薬不足は、さらに続くとみられる。というのも厚生労働省は、2年ごとに見直される「医療の値段」診療報酬改定で、来年度以降の薬の公定価格(薬価)が引き下げられる方針を決めたのである。
ところが製薬企業の医療情報担当者からは「これ以上、薬価を下げられれば、製薬会社は薬を作れば作るほど赤字になる。取り扱いをやめざるをえない」という悲鳴が聞こえてくる。大手ジェネリック製薬企業であれば、儲かる薬のみに特化もできるが、取り扱い品目の少ない中小企業は廃業の選択しかない。
例えば今、不足している処方薬のひとつに、子供や妊婦でも安全に使える解熱鎮痛剤「カロナール」がある。
このカロナール、ジェネリック最安値は200mgの錠剤1錠あたり5.9円。新型コロナやインフルエンザに処方される500mgでも1錠あたり7.0円だ。駄菓子の「うまい棒」や「チロルチョコ」より安い。
今から3年前の、ジェネリック医薬品の製造過程で水虫治療薬に睡眠導入剤が混入していた事件を機に、国が承認していない不正な製造過程が次々と明るみに出た。薬である以上、薬価が安いからといって手順を守らない製造工程が許されるわけではないが、不正な製造を指摘され、年間40億錠を生産する工場を新設したとしても「薬1錠が10円以下」なら儲けは出ない。
カロナールと同じ成分「アセトアミノフェン」の市販薬は、薬局で10錠から12錠入って700円前後で売られている。ジェネリック医薬品の10倍の値段で売れるのだ。それなら製薬会社は作れば作るほど赤字の「処方薬」製造を中止し、利益の出る市販薬の製造にシフトするのは当然の決断だろう。
処方薬局に在庫がなければ、高熱でフラフラしているのに解熱剤を探して数軒、ほかの薬局をハシゴするか、諦めて市販薬を買うしかない。
現在、不足している医薬品の一覧は厚生労働省のウェブサイトで確認できるが、その一覧を見ると、あまりの種類の多さにびっくりする。前述の解熱鎮痛剤や咳止め薬のように代わりの薬を薬局で買えるならいいが、喘息治療薬や狭心症治療薬、子供向けのアレルギー治療薬、精神薬など、発作が起きた時に足りないと生死にかかわるような種類にまで広がっている。国が民間企業に価格規制の強権を発動した「人災」だ。
毎日飲み続けている大事な薬や発作時に使う薬は在庫切れを想定して、残量に余裕があるうちに早めにもらいに行った方がいい。アレルギー薬などは実費にはなるが、自由診療の美容皮膚科などで取り扱っていることもある。
寒さが本格化する前に、急な体調悪化に備えて、自分に合った総合感冒治療薬を一箱買っておくと安心だ。
(那須優子/医療ジャーナリスト)