菅田将暉主演の「ミステリと言う勿れ」が大ヒットしている。10月1日時点で、興収27億8000万円を記録した。40億円突破はほぼ確実な情勢で、さらにその上の数字も期待できる。
この作品は、すでにテレビドラマで知っている方も多いだろう。菅田演じる主人公の久能整(ととのう)は、謎解きが得意な大学生だ。あえてジャンルをいえば探偵ものだが、タイトルから察せられることがある。「ミステリ」ものからの逸脱、「探偵もの」からも距離を置きたいとの姿勢だ。
原作がそうなので、映画版も当然そうなる。それが実のところ、本作の魅力になっている。謎解きをがつがつ描かない。そこを話の中心的な視点としない。
整は始終、淡々とした面持ち、態度で謎に挑んでいく。人間関係では少し臆病なところもあり、ある距離感を保つ。日常の所作においても、独特のこだわりが目立つ。
今の時代の若者らしくも見えるが、そのあたりでは、それほど魅力的に映るわけではない。ところが謎解きとは関係のないことを話す段になるや、俄然、精彩を放つ。
本作でいえば、事件に絡む一人の女性の父親が登場するシーンだ。父親は家庭に入る女性の幸福を語るが、整が異を唱える。女性の生き方を一つの枠に押し込まないことの大切さである。
ラスト近くで、こちらも事件の中心人物である少女に、あるアドバイスをする。普通の「ミステリ」なら、事件解決で終わりだが、本作はその先を見据える。少女への、まさに生き方のアドバイスが心をつかむ。
演じる菅田が役柄に溶け込んだような趣があり、見事であった。柔らかな口調、ときにもじもじした態度、それが一転、毅然とした喋り口調で周囲を押しまくる。言葉が強い。魂が入っている。大ヒットは、菅田の貢献が特に大きいと感じる。
思い返せば、彼の名が映画で広く知れ渡るようになったのは、公開が限定的な、いわゆる単館系作品だ。「共喰い」(2013年)や「そこのみにて光輝く」(2014年)が出発点であり、2016年から17年にかけて「ディストラクション・ベイビーズ」「セトウツミ」「あゝ荒野」(前後編)など、単館系作品における代表作がズラリと並ぶ。
とりわけ2017年が、彼にとっての節目であったと言える。初の全国的なヒットとなった「キセキ あの日のソビト」(興収14億8000万円、2017年)が登場した。その勢いが、「帝一の國」(19億3000万円、2017年)から「アルキメデスの大戦」(19億3000万円、2018年)へと続く。
以降で見れば、「糸」(22億7000万円、2020年)、「花束みたいな恋をした」(38億円、2021年)、「キャラクター」(16億円、2021年)の3連続ヒットがある。
今や菅田将暉は人気と実力を兼ね備えた、日本映画の堂々たる「顔」的存在になったと言える。その作品群は商業性、芸術性の境界、枠組みを軽々と突破していく。全く稀有な俳優である。
(大高宏雄)
映画ジャーナリスト。キネマ旬報「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞「チャートの裏側」などを連載。新著「アメリカ映画に明日はあるか」(ハモニカブックス)など著書多数。1992年から毎年、独立系作品を中心とした映画賞「日本映画プロフェッショナル大賞(略称=日プロ大賞)」を主宰。2023年には32回目を迎えた。