前回の記事では、首都直下地震をはじめとする直下型の大地震発生時、タワーマンションなどの高層建築物を倒壊させる第1のリスクを紹介した。
第2のリスクとして挙げられるのは、海や川などに近い軟弱地盤に建つ高層建築物を根元から襲う「側方流動」の脅威である。
政府(内閣府)が約10年ぶりに被害想定の見直しに着手する首都直下地震では、湾岸地域など地下水位の高い砂地盤が液体状に変化する液状化が懸念されている。ただし、高層建築物は砂地盤の下にある支持層まで打ち込まれた基礎杭によって支えられているため、仮に砂地盤で大規模な液状化が起こったとしても倒壊することはないとされている。
ところが大規模な液状化の発生とともに、「側方流動」と呼ばれる現象が重ねて起こると、高層建築物が大きく傾いたり、根元から倒壊したりするという、恐るべき危険性が近年の研究や実験で明らかになってきたのだ。
典型例は首都圏の湾岸エリアに林立するタワーマンションだ。側方流動によるタワマン倒壊のメカニズムについて、地震工学の専門家は次のように指摘している。
「埋立地などに建つタワマンの表層地盤、すなわち建物の基礎杭を支える支持層の上にある砂地盤は、矢板と呼ばれる鋼鉄製の仕切り版、平たく言えば護岸によってガードされている。ところがこの護岸が強い地震動によって損傷を受けると、液状化した表層地盤が破壊箇所から海や川に向かって、勢いよく流れ出すことがわかってきたのです」
そしてこの表層地盤の流れが、大規模な側方流動を誘発するというのだ。地震工学の専門家が続けて警鐘を鳴らす。
「護岸の破壊がさらに進むと、水平方向の側方流動は勢いを増し、護岸は壊滅的な破壊に至ります。この時の側方流動のパワーは絶大で、タワマンの躯体を支える基礎杭をも破壊して、地盤もろとも川や海に流出させてしまう。こうなったら万事休す。基礎杭を失ったタワマンは、根元からあっけなく倒壊します」
ちなみに、側方流動はタワマンなどの高層建築物だけではなく、低中層のマンションや商業ビル、さらには木造住宅などにも壊滅的な被害をもたらすという。
まさに戦慄のリスクと言うほかはない。(つづく)
(森省歩)
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。1961年、北海道生まれ。慶應義塾大学文学部卒。出版社勤務後、1992年に独立。月刊誌や週刊誌を中心に政治、経済、社会など幅広いテーマで記事を発表しているが、2012年の大腸ガン手術後は、医療記事も精力的に手がけている。著書は「田中角栄に消えた闇ガネ」(講談社)、「鳩山由紀夫と鳩山家四代」(中公新書ラクレ)、「ドキュメント自殺」(KKベストセラーズ)など。