フィリピンを拠点に、特殊詐欺や広域強盗を日本の実行役に指示したとして、渡辺優樹被告、小島智信被告、今村磨人被告、藤田聖也被告の4人が逮捕されたのは今年2月。小島の下で詐欺事件に関与した男が法廷で明かした「ルフィ事件」の陰の真相とは‥‥。
「警察に言ったら、親兄弟に危害を加えると言われていたので」
9月26日、東京地裁。犯行グループから抜け出せなかった理由を明かしたのは藤田海里被告(24)。弁護人から実際の危害について聞かれると、
「実際にあるかはわかりませんが、耳を切り落とす動画は見せられました」
と、恐怖支配の実態を告白したのだった。裁判ウオッチャーが解説する。
「藤田被告はSNSで見つけた高額バイトの情報を真に受けて、19年5月にフィリピンに渡航。しかし、現地でパスポートやスマホを取り上げられ、なかば監禁状態で特殊詐欺の〝かけ子〟をさせられたと言います。フィリピンから『財務局の職員』をかたって都内に住む男性2人からそれぞれ350万円、63万円をだまし取った2つの事件で起訴されました」
フィリピンでは藤田被告と同様にパスポートを没収された日本人が、リストとマニュアルを手に特殊詐欺に手を染めていたという。
「フィリピンでは小島や今村といった幹部に限らず、全員が偽名を使っていたそうですが、渡辺だけは〝ボス〟と呼ばれていたとか。藤田被告は『テラダ』のグループに属しており、最初にアプローチするかけ子から、財務局の職員役、現金を受け取る〝受け子〟や〝出し子〟への指示など、様々な役割を担っていました」(前出・裁判ウオッチャー)
そんな藤田被告には「妻」と言うべきパートナーがいた。23年5月、そろって強制送還・逮捕された熊井ひとみ被告(26)だ。大学在学中にミスコンに出場した経歴がある美貌の持ち主で、逮捕後に一部では「かけ子姫」と呼ばれていた。
「女性のかけ子は、高齢者に信頼されやすいため、現地では主力メンバーの1人として重宝されていたとか。転機となったのは19年11月のアジトの摘発。メンバー30人以上が拘束され、そこから運よく逃れたのが、藤田と熊井の両被告。2人は逃避行を続ける中で恋仲となり、藤田被告との間に子を身ごもるまでに。帰国時には、妊娠6カ月だったと聞いています」(社会部記者)
まさに「悲恋の逃避行」の果てに逮捕されたわけだが、今回の初公判では、すでに熊井被告が出産していたことが明らかになり、藤田被告は、
「できれば自分たちの手で育てていきたい」
と胸中を明かしたという。
日本を震撼させた「ルフィ事件」の首謀者やその一味は逮捕されたが、特殊詐欺の被害はいっこうに収まる気配はない。詐欺犯罪に詳しいフリーライターの根本直樹氏は言う。
「つい先日、ミャンマーで中国人の詐欺組織が摘発を受け、1200人以上が身柄を中国に送られました。最近は、物価が安く、警察への賄賂が横行しているような途上国に詐欺拠点が作られるケースが多く、今後は日本人の詐欺組織がアフリカやラオスに進出する可能性もあります。くれぐれも『高額バイト』などの甘い言葉にはだまされないことです」
詐欺だけでなく、強盗殺人にも関与したルフィ一味。一刻も早い事件の全容解明が待たれる。