ABEMAが10月11日に完全生中継した「第71期王座戦五番勝負」第4局は、同局で放映した将棋タイトル戦としては開局以来、最高視聴数を記録。なんと約760万ポイントだったと、同局が発表した。それほど藤井聡太八冠誕生に、関心が持たれていたのだ。
ABEMAは昨年のサッカーW杯ドーハ大会も中継。今年からは米メジャーリーグ全試合中継も始めている。
昨年のサッカーW杯をめぐっては、放映権を持つテレビ朝日系列の局がない福井県や島根県、鳥取県、宮崎県、徳島県、高知県の中には、地上波で日本代表の対コスタリカ戦が放映されない地域もあった。
NHKのメジャーリーグ中継でエンゼルス・大谷翔平の試合中継はあっても、ダルビッシュ有や吉田正尚の扱いは録画だったこともある。もし今年の冬、オリックスの山本由伸がメジャー移籍すればNHKは来春、山本の登板を生中継するのだろうか。
内閣府の調べによると、2022年現在、29歳以下の世帯のテレビ所持率は80.9%。Z世代の5世帯に1世帯はテレビを持っていないことになる。全世帯でもテレビ所持率は92.9%と、テレビ不所持率は約1割にのぼる。
そんな「テレビ離れ」を浮き彫りにしたのが、今夏の大ヒットドラマ「VIVANT」(TBS系)だという。広告代理店関係者が分析する。
「初回の世帯視聴率は11%台でしたが、ジワジワと視聴率が上がり、最終回は19.6%と倍増しました。評判を聞いた視聴者が、民放公式テレビ配信サービスTVerの見逃し配信で途中から見始め、後半の視聴率を後押ししました。仕事に忙しい若い世代は見たい時にドラマを見れば済むので、NHKの受信料を払ってまでテレビを必要としていません」
ジャニー喜多川氏の性加害をめぐり、テレビ局の倫理上の責任も追及されている。
「ジャニーズ所属タレントを見たくない、あるいはジャニーズ所属タレントが出ないから見たくないという両方の理由で、ますます女性視聴者のテレビ離れは加速するのではないか」(前出・広告代理店関係者)
藤井八冠誕生の瞬間、さらに対局後の「感想戦」で逆転負けを喫した123手をなぜ打ったのか、永瀬九段自身が理由を語るシーンも、ABEMAで生中継された。「感想戦」の最中、永瀬九段に笑顔が戻ると、SNSでは「永瀬拓矢」がトレンド入り。将棋ファンの間ではスマホやパソコンでの視聴スタイルがすっかり定着した。
その間、地上波は藤井八冠の故郷・愛知県瀬戸市や号外を配る様子を放送。サッカーファン、MLBファンに続いて将棋ファンも気が付いてしまった。「中継が見られないテレビは必要か?」と。
サッカー効果で2022年10月~12月期は利用者数が過去最高の3409万人に達したABEMA。2023年の同時期はZ世代だけでなく、将棋ファンの中高年の視聴数も伸ばすと見込まれている。唯一の懸念材料は開局後、黒字に転換できていないことだが、それも「藤井八冠効果」でクリアできるか。