「性別変更のために手術を強制するのは違憲」
これは性同一性障害の人物を対象とする性別変更のルールを定めた特例法に対し、最高裁が10月25日に下した判決だ。「(性別変更に)手術の強制は人権侵害」というのは、以前から活動家や一部の政治家が訴えてきたことだ。元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏も、10月26日のX(旧Twitter)で、性別変更手続きのためだけにイチモツを切り落とさせるのは中国ウイグル問題や中東テロ以上の残虐行為だと断じている。
だが特例法とは本来、性同一性障害と診断され、なおかつ性違和に耐え切れず、自分の体を見ることも苦痛となって手術まで行った人が、問題なく社会生活を送るための措置として(幾つかの条件付きではあるが)作られたものだ。つまり、特例法はそのような人物の人権を守るために作られたもので、性別を変えたければ手術をしろ、という言い分は本来の主旨とは順序が逆となる。「手術の強制は人権侵害」と主張する人たちが特例法成立の経緯を知らないのか、または無視しているのかは分からないが、いずれにせよ的外れの主張だ。が、結果的に今回の判決により、特例法は「単なる性別変更のためのルール」と化してしまった。
性別に関する十分な議論や合意形成がないまま話が進めば、どこかの首相ではないが、社会が大きく混乱するのは避けられそうにない。
トイレや浴場の女性スペース問題だけではない。例えばスポーツの男女枠はどうするのか。海外では既にトランスジェンダーの女性が、女性競技に出場して次々と上位に入る現象が起きている。
女子校や男子校への入学はどうするのか。例えば津田塾大は2025年から、性自認が女性のトランスジェンダーの受け入れを決定しているが、他の女子大の動向は…。この場合は自認なので、女性を自称すればいいのか、ということになる。
まだある。逮捕された際の収監先はどこなのか。性自認した収監先になるのか。であれば、性犯罪者が女性を自認したとしたら…。少なくとも性愛対象で収監先を決めることはできないだろう。
保険証の性別欄問題もある。医療は性別によって投薬量や治療方法が異なる場合があるため、無視できないだろう。あるいは政府が進める、女性活躍推進による女性の平均賃金や管理職比率の算出も、性自認によるものでOKか。これまで女性差別や男女格差をなくそうと働きかけてきたものに対して、性自認女性を加えて本当に問題は起きないか。
ざっと思い付くだけでもこれだけの問題があるが、議論も合意形成もないまま、現場に丸投げでいいのだろうか。この性別の定義問題は、みながもっと関心を持たなければ、知らない間に声の大きい人たちの主張が一方的に通りかねない。
今回の判決により、おそらく法改正をすることになるのではないか。LGBTの方を含め、ひとりでも多くの人の声を聞き、国民全員にとってベターな状態に着地できることを願う。
(群シュウ)