岸田文雄総理を騙る「AIニセ動画」がSNS上に投稿された問題について、総理の女房役を務める松野博一官房長官は、次のように痛烈な批判を口にした。
「政府の情報を偽って発信することは、民主主義の基盤を傷つけることにもなりかねず、行われるべきではない。どのような意図であれ、ニセ情報の投稿は社会を混乱させたり、他人に迷惑をかけたり、罪になる場合もあるので、くれぐれも慎んでほしい」
なるほど「岸田首相『確かにいたしました』」と銘打たれた問題のニセ動画は「いつもの路上生活者」「川の土手の下」「しこたま飲んで」「舐め合いながら」「イチジク浣腸」などの猥雑な言葉が散りばめられた、下劣極まるシロモノだった。
ところがその後、野党第1党の立憲民主党から「ならばアンタはどうなのか」の大ブーメランを食らって、話は締まらないことに。いわゆる「Dappi事件」である。
X(旧Twitter)の匿名アカウント「Dappi」による虚偽の投稿によって、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員らが名誉を傷つけられたとされるこの事件を巡っては、10月16日に東京地裁がIT関連企業のワンズクエストと同社の社長らに220万円の支払いなどを命じ、判決が確定していた。
それがニセ動画事件を機に、再びクローズアップされたのだ。ワンズクエストは自民党との関係が深く、杉尾議員は10月31日の参院予算委員会で、かつてワンズクエストの取引先企業の代表取締役を務めていた岸田総理に、次のように噛みついたのだ。
「自民党がですね、今回のDappiの事件の中で、金銭的な提供があったんじゃないか、流れたんじゃないかと、こういう疑惑が持ち上がっているわけですけども、それについて、自民党として調べる気持ちがあるかどうか」
これに対し、岸田総理は次のように答弁している。
「なんら調査の必要があるとは考えておりません」
全国紙政治部記者が指摘する。
「東京地裁は判決で『杉尾氏らに対する虚偽投稿は、ワンズクエストが組織ぐるみで行っていた』としています。ワンズクエストと自民党との関係については明らかになっていませんが、自民党としては思わぬところから石が飛んできたというところでしょう」
永田町は魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿なのだ。
(石森巌)