25年4月13日の開幕を控える「大阪・関西万博」。会場となる人工島・夢洲に足を運ぶと、現場作業員の悲痛な声が聞こえてくる。たった1軒しかないコンビニでは弁当の争奪戦が繰り広げられ、駐車場不足から「マイカー通勤」も禁止され‥‥。絶望の工事現場と金食い万博の重大リスクをリポートする。
島にある唯一のコンビニ。昼時となれば、レジ前には弁当やタバコを求める客が長い列を作る。同僚に頼まれたのか、大量に弁当を買い込む客に、他の客たちは冷たい視線を投げかけていた。また、店の前には灰皿が3つ設置されているが、とてもその数では足りず、彼らが去った後には大量の吸い殻が路上に打ち捨てられていた─。
ここは大阪湾に浮かぶ人工島、夢洲。25年4月13日に開幕する「大阪・関西万博」(以下、大阪万博)の会場予定地だが、現時点でそれらしき建造物は確認できない。基礎工事の最中なのだろう。前述のコンビニで弁当を購入していた現場作業員はこう明かしてくれた。
「いつもは弁当を持ってくるけど忘れてね。マイカー通勤が禁止されているから、引き返すわけにもいかない。自分は会社のバンで相乗りしているけど、バスで通っている人は多いよ。もう少し工事が進んで1000人くらいになるとコンビニもこの程度の混雑じゃ済まないな。実際、夕方のラッシュ時には駐車スペースに車が入りきらなくて、小競り合いはしょっちゅうだよ」
別の作業員もコボす。
「夢洲はスマホの電波が弱い。マップを開くだけでも時間がかかる。昼休みの暇つぶしもできやしない」
現場からも不満の声が噴出する中、大阪万博への風当たりは強まる一方だ。
11月末に「万博崩壊 どこが『身を切る改革』か!」(せせらぎ出版)を上梓するジャーナリストの西谷文和氏が解説する。
「当初の約1.8倍に膨れ上がった2350億円という会場建設費ばかりが取り沙汰されていますが、上下水道や高架道路の拡幅、地下鉄の延伸など、インフラ整備に約1600億円かかると言われています。それとは別に土壌の液状化対策に約790億円。しかし、これには地盤沈下対策の工事費が含まれていません。情報公開請求で取り寄せた資料によると、この30年で夢洲は5メートルも沈んでいるんです」
実際、夢洲で働く作業員からはこんな証言を得ている。
「基礎固めをしていると、いたるところから水が吹き出す。その対応に意外と時間がかかって、遅れの原因になっている」
もともと大阪万博は、日本維新の会がカジノを含むIR(総合型リゾート)とセットで推し進められてきた。誘致段階から国会で「万博はカジノ誘致の隠れ蓑ではないか」と追及してきた日本共産党の清水忠史前衆議院議員が語る。
「夢洲は生活ゴミと汚泥で埋め立てられた人工島。土壌はダイオキシンやPCBといった有害化学物質で汚染され、 地盤は極めて軟弱。カジノビルのような高層建築物を建てるには不適合です。しかも夢洲への交通ルートは、夢舞大橋と夢咲トンネルの2つしかない。18年9月の台風では、関西国際空港が冠水し、連絡橋にタンカーが衝突したことで、何千人もの人々が孤立しました。台風に限らず、南海トラフ地震や津波、その他の自然災害のリスクを考えて、想定入場者2820万人の安全を担保できるのか、はなはだ疑問です。避難計画でさえ、いまだに策定されていないことも大問題です」
課題は、膨れ上がるコストばかりではないようだ。