関西地方を代表する大企業のコンプライアンスがこれほどお粗末なのかと、呆れた視聴者は多いだろう。11月14日に開かれた、宝塚歌劇団の記者会見のことだ。
自殺したとされる宙組劇団員の苦悩の原因を作ったとされ、一部週刊誌にイジメとパワハラを行ったと指摘されたのは、同じく宙組の劇団員4人。ところが「第三者委員会」による調査結果では、宙組の所属劇団員66人のうち4人が、調査チームのヒアリングを拒否したことが明かされた。これで「イジメやパワハラは確認されなかった」と断言するとは、いったい何のための調査なのかと「ヤラセ」を疑わざるをえない。
調査をしたのは「大阪4大法律事務所」と言われ、京都大学のiPS細胞の知的財産管理も請け負い、在阪大手企業の法務部門を一手に引き受ける有名法律事務所だった。だがヒアリングを拒否できる「大甘調査」なら、どんなヤリ手弁護士が担当しても、真相究明にはほど遠い。
それに対し、転落死した劇団員の遺族が代理人に指名したのは、大々的に報じられた「電通過労死事件」で、遺族代理人として労災認定を勝ち取った大物弁護士だった。在阪の弁護士が言う。
「東大卒の電通エリート女性社員が自殺したあの事件も、単なる過労死ではなく、セクハラなどセンシティブな事情を抱えていました。宝塚歌劇団の転落死も、後輩が先輩にヘアアイロンを顔に押し付けられて火傷を負わされるという、密室での行為を暴く難しい案件です。しかも歌劇団の団員は先輩に命じられたら、どんなものを見聞きしても他言はするなと『洗脳』されている。それで歌劇団側は『遺族が泣き寝入りする』とタカを括っていたのか。過労自殺や労災案件を得意とする大物弁護士が遺族の代理人となり、慌てて大手法律事務所に付け焼き刃の調査を依頼したと噂されています」
これが裏目に出た。この弁護士が続ける。
「宝塚歌劇団を傘下に持つ阪急阪神ホールディングス代表取締役会長兼CEOの角和夫氏は、父が阪急電鉄の顧問弁護士を務める家庭で育った。阪急電鉄と宝塚歌劇団とともに生きてきたような人で、自ら書き下ろした歌詞を宝塚歌劇団に贈るほど、思い入れが強い。一方で『門前の小僧』として労働争議に詳しく、2月に今回のイジメ疑惑が週刊誌に取り上げられた時点で、角氏にまで『下級生の顔に火傷を負わせるほどのイジメ』が報告されていたら、手加減などせず4人の劇団員の調査を徹底的にやったことでしょう。直近1カ月は右肩上がりだった株価も、会見翌日から値を下げています」
転落死事件の真相究明をめぐり、法曹界の「ゴジラとキングギドラ」のような法廷闘争が繰り広げられることになるのか。むろん法廷闘争の結果がどうであれ、亡くなった劇団員は帰ってこない。
(那須優子)