ゴールデン・グラブ賞が発表されて、日本一に輝いた阪神から最多の5選手が選ばれた。捕手・坂本、一塁・大山、二塁・中野、遊撃・木浪、センターの近本が外野で受賞。昔からセンターラインの守りがしっかりしているチームは強いと言われており、今年の阪神が改めて証明した。5人ともホンマにタイトルにふさわしい守備をしていた。
中でも見事だったのは、ショートからのコンバート1年目で受賞した中野。二塁で使ってくれた岡田監督に感謝しなアカン。足の速さを生かした守備範囲の広さは目を見張るものがあったし、スローイングも安定していた。何より遊撃・木浪との息の合ったプレーで12球団最多の併殺数につなげた。ほとんどのチームが二遊間を固定できなかったが、この2人は試合を重ねるに連れてうまくなっていった。
中野が他の部門より価値があるのは、菊池(広島)の11年連続の受賞を阻んだこと。誰もが認める名手からタイトルを奪うのは並大抵ではない。今年の菊池の動きが悪くなったわけではなく、さすがやなと唸るプレーを何度も見せていた。実際に守備率9割9分5厘は、中野の9割8分8厘を上回っている。記者投票の差はわずか3票だけ。評価が分かれたのは、フルイニング出場の中野に対して、菊池は120試合にとどまったことやと思う。
実は、菊池の連続受賞は個人的に注目していたから少し残念に思う。自慢になってしまうけど、連続受賞の記録は僕の12年。あと2年に迫っていたので、追いついてほしいなと思っていた。そうすると、また僕の名前をメディアが出してくれる。僕の現役時代を知らない若い人たちにも知ってもらえる機会になったはずだから。残念ながら記録は途切れたけど、それでも10年連続は大したもの。山本浩二さん、秋山幸二と並ぶ2位タイの記録になった。
選手の立場からすると、守備での表彰はまた違う喜びがある。一生懸命にやっていれば、見てくれている人がいると実感するから。僕も1975年の受賞は特にうれしかった。日本シリーズで広島を下して、球団初の日本一に輝いたシーズン。全試合に出場して盗塁王は取ったけど、打撃はスランプで2割5分9厘しか残せなかった。チームとしては喜ばしい成績やけど、自分としては反省の多い1年だった。それでも守備の賞をいただけた時は、自分も優勝に貢献したことを認めてもらえたようでうれしかった。
この賞が創設されたのは72年からで、当時はダイヤモンドグラブ賞という名称やった。僕の4年目シーズンから賞が始まって、第1回目から受賞させてもらえた。守備でも表彰してもらえることは励みになったし、賞に恥じないプレーをしないといけないと思った。でも、もっと前からあったら、あと2、3回はもらえていたのに‥‥。まあ、それは冗談として、連続回数だけでなく、受賞回数12度も歴代最多で、いまだに破られていない。2位の11度が伊東勤と秋山幸二。僕の記録に追いつきそうで追いつけなかった。
菊池は連続回数こそ止まったけど、来年は中野からタイトルを奪い返して、僕の記録を追い越すことを目標にやってほしい。まだ33歳で老け込む年齢やない。下半身を徹底的に鍛えて、試合を休まずに出られるようになれば、11回目の受賞も見えてくる。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。