大谷翔平が満票で自身2度目のアメリカン・リーグMVPに選ばれた。当然の結果やと思う。本塁打王に輝いて、投手としても2ケタの10勝を挙げた。WBCの世界一の疲れも見せず、開幕から圧倒的な成績を残した。メジャーで日本人が本塁打王を獲得すること自体、信じられへん話やのに、二刀流でやってのけるとは。アメリカでは神話上の生物として「ユニコーン」にたとえられているが、ほんまに二度と現れない選手とちゃうかな。
日本全国の小学校に3つずつ、計6万個のグラブをプレゼントした太っ腹にも驚いた。自分は野球が好きで好きでたまらんから、子供たちの間で野球人気が低下していると聞くと、行動せずにはおれんかったんやろね。知人に「何で3つずつか知っている?」と答えを教えてもらって、また感心した。僕も左利きやから、左利きのグラブがあると知った時の子供たちの喜ぶ顔が想像できる。差別といったら大げさやけど、左利きはいつも忘れられがちになっているから。
大谷とともにアッパレを送りたいのは、ナ・リーグのMVPのロナルド・アクーニャ(ブレーブス)。ベネズエラ出身の25歳の外野手は、41本塁打、73盗塁という異次元の成績を残した。40本塁打、40盗塁のフォーティフォーティ達成は5人目で、50盗塁以上は史上初めて。MLBの歴史上最も、パワーとスピードを兼ね備えた数字を残した。大谷と同じリーグならMVPの得票数を競ったと思う。
アクーニャの盗塁数は今季からのルール改正の影響も大きい。接触プレーの危険性を減らすため、ベースの一辺が約7センチ拡大され、それに伴い塁間が約11センチ短くなった。しかも、投手は牽制が2回に制限され、3度目で刺せなければボークとなる。ピッチクロックがあるためセットポジションで長くボールを持つこともできない。これなら当然、盗塁数は増える。実際に今シーズンは全体で昨年より1.4倍増えたという。僕から言わしたら、もっと増えないとおかしい。50盗塁以上はアクーニャ含めて3人だけ。
来年は各球団が改めて盗塁を戦術的に見直すので、足の速い選手が重宝されるはず。かつてのリッキー・ヘンダーソンのようにシーズン100盗塁以上をマークする選手が出てきてもおかしくない。
ただ、いつも言うように盗塁を増やす最大の秘訣は出塁数を増やすこと。いくら足が速くてもレギュラーを奪えないと100盗塁は無理。まずは打てるようにならないと。実際にアクーニャは41本塁打の長打力だけでなく、確実性も兼ね備えている。打率3割3分7厘で出塁率はリーグトップの4割1分6厘。これだけ出塁したら、そら盗塁は増える。相手バッテリーの立場になると、こんなやっかいな打者はいない。まともに勝負したら一発の危険があるし、勝負を避けても走られるんやから。
MLBで採用されたルールは、いずれ日本でも採用されるのが今までの流れ。そうなると日本でも盗塁の数が増えるのは間違いない。今季は阪神・近本が28盗塁でタイトルをとった。パ・リーグは小深田と周東の36がトップ。僕は30以下では盗塁王とは呼びたくない。該当者なしでもいいぐらい。新ルールが採用された際には、僕の106盗塁の記録に挑戦するような選手が現れてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。