世界には「ヴォイニッチ手稿」や「ソイガの書」など、誰がいつ、何を目的にして書いたのかわからない「謎に満ちた」とされる本が数多く存在する。なかでも「最も危険な呪いの本」として知られるのが、スウェーデンの国立図書館に所蔵されている「ギガス写本」(別名:悪魔の聖書)だ。
同書は高さ92センチ、幅50センチ、厚さ22センチ、重さが75キロにもなる、現存する世界最大の大型写本。歴史家によれば、正確な起源はわからないものの、おそらくは13世紀初め、ボヘミア(現在のチェコ)のベネディクト会の修道院で、ヘルマンという修道士の手によって作られたものではないかという。
「ギガス写本」にはそれこそ旧約・新約聖書から、チェコやユダヤの歴史や幾何学、さらには暦や数々の死亡記事、魔術の呪文に至るまでありとあらゆる分野の記述が掲載され、その全てがラテン語で書かれている。
「複数あるフルカラーページには悪魔の姿が描かれているのですが、言い伝えによれば、それは本を完成させるために力を貸してくれた悪魔への感謝の意味合いがあるのではないか、とされているんです」(歴史家)
というのも、写本したヘルマンなる人物は、神への誓いを破り監禁されていた修道僧。厳しい刑罰に耐えるため自らに大きな課題を与え、それが世の中の全てを集約した写本をわずかひと晩で完成させることだった、というのである。歴史家が続ける。
「ところが真夜中になり、どう頑張っても誓いを守れそうにないことがわかった。そこでヘルマンはあろうことか、神ではなく堕天使ルシファーに『どうか自身の魂と引き換えに、この本を完成させてほしい』を依頼したというんです。そしてルシファーがその願いを受け入れ、写本を完成させた。ヘルマンは修道僧でありながら、ルシファーに対する感謝の意を込め、カラーページに悪魔の絵を入れたのだと。つまり、描かれた悪魔の絵は、彼が魂を売った証だったと言われているのです」
この「ギガス写本」は1648年の三十年戦争を経て、スウェーデン軍により戦利品としてストックホルムに持ち帰られた。その後、奇怪な現象が相次ぎ、所有者を転々としたのち、1768年からは国立図書館で所蔵することになった。
ところが1858年、図書館の警備員が図書館内に閉じこめられ、翌朝、半狂乱の状態で発見されるという事件が起こる。警備員は「ギガス写本が空中を飛んでいた」と証言。そのまま施設送りになった。
そんな不可解な出来事もあり、現在は一般公開されていないという。はたしてこの本に描かれた悪魔の絵が意味するものとは…。
(ジョン・ドゥ)