ソフトバンクにFA移籍した山川穂高の人的補償は和田毅ではなく、甲斐野央やった。日刊スポーツのスクープで和田に決まりかと思っていたら、翌日の新聞で違う名前になっていた。いろいろと憶測されているが、真実はソフトバンクと西武の両球団しかわからない。
言えることは、28名のプロテクトから漏れていたことが報道され、球団の顔である和田のプライドを大きく傷つけたこと。和田自身は「いろいろな報道、記事が出ているみたいですけど、自分としては、この件に触れたくない思いと考えたくない思い」と語っている。インスタグラムには誹謗中傷するコメントも寄せられているという。残り少ない現役生活を完全燃焼しようとしているのに、思わぬミソがついてしまった。ソフトバンクは、まさか42歳の和田を指名候補にするなど予測していなかったんやろうけど、失態と言われても仕方がない。
ソフトバンクからすると甲斐野を取られるのもほんとに痛い。昨年も46試合に登板し、3勝1敗2セーブ、防御率2.53。ブルペンで欠かせない存在となっていた。実は甲斐野とは小学生の時から縁があった。大阪のABCラジオで「少年野球を実況する」コーナーがあって、その時に甲斐野を教えたことがある。東洋大姫路から東洋大に進み、2018年のドラフト1位でソフトバンクに入団。宮崎キャンプを訪れた際に話をすると、しっかり覚えてくれていた。
甲斐野からすると、一皮むけるチャンスかもしれない。1年目に65試合も投げ、翌年に右肘を手術。21年に復帰したけど、好不調の波が激しい印象がある。昨年もブルペンで重宝されたとはいえ、いい場面で打たれることが度々あった。150キロを軽く超えるストレートを持っていながら、まだ能力を全開にできていない。優しすぎる性格も邪魔をしている可能性がある。これが古巣のソフトバンク相手に、あの剛球で内角をえぐる投球ができたら、強烈な恩返しができるはず。ぜひとも新天地での活躍を応援したい。
それにしてもソフトバンクはFAの人的補償で、21年に岩嵜翔を中日に、23年に田中正義を日本ハムに、そして今年の甲斐野と3年連続でドラフト1位を放出した。ちょっと考えられない事態や。普通はドラ1の選手がチームを引っ張っていくのに、ここ10年ぐらい、ソフトバンクで中心選手になったドラフト1位はいない。4軍まであって、ドラ1も育てられないのはどういうことやろ。ファームの施設も12球団屈指の最新設備が整っているのに不思議で仕方がない。昨年、日本一となった阪神は大山、近本、佐藤輝、森下と、ドラフト1位で打線を引っ張った。これが本来のあるべき姿。FAに頼ってドラフト1位を差し出していては、ファンも複雑やと思う。
プロ野球の正月と言われる2月1日のキャンプインも近い。そこで気になるのはロッテ・佐々木朗希の未更改の契約。来オフのポスティングシステムでのメジャー挑戦か否かを話し合っているとの報道もある。僕から言わしたら、メジャーうんぬんは山本由伸のようにタイトルを取るぐらいの活躍をして、チームを優勝させてからでいい。次のステップに進むには最低でも1年間、先発ローテを守ってから。悪しき前例を作ったら、日本球界がおかしくなる。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。