ここでふと疑問に思うのが、「1人5万円」という超高級寿司店の料金設定だ。
なぜそんなに高いのか。2月に「新装版 ビジュアル図解 食品工場のしくみ」(同文舘出版)を上梓する食品安全教育研究所代表の河岸宏和氏に聞いた。
「まず考えていただきたいのが人件費。長年修業を積んできた親方の年収を1000万円と仮定すると、月収は約80万円。1カ月の営業日が20日間なら、1日4万円。カウンターで親方が相手にできるのは1日せいぜい10人ですから、客1人に対して4000円。建物にも同等のコストがかかり、座っただけで8000円かかる計算になります」
確かに、予約の取れない超人気店の大将には「寿司ドリーム」を体現してほしいもの。河岸氏が次に挙げるのは、食材の廃棄率の高さだ。
「米を炊きあげて酢飯にしてから1時間経ったものは廃棄しますし、熟成ネタを扱う際には、外側の変色した部分を除いて、キレイな部位だけを使います。おまかせを基本としても、追加でかんぴょう巻きやしめ鯖を注文されて、『ありません』とは言えない。客の目が届かないところにも食材のロス、つまりお金や人の手がかかっているんです」
ネタに鮮度抜群の極上素材を使うのは当たり前。さらにいつ注文が入るかわからないネタも用意するとなれば、日々の食材コストは相当な額に上るだろう。
「高級店に入ったらカウンターをよく見てほしいですね。職人がかんなで仕上げた立派な白木が使われていますから。美しい木目と水を吸わないというのが特徴で、このメンテナンスにもお金がかかりますし、『座って3万円』というのは妥当な金額。土地代の高い銀座の最高級店で5万円というのも納得できます」(河岸氏)
1皿100円台の回転寿司はさておき、1万円以下で食べられる大衆店と、その3倍以上の料金を取る高級店はどこが違うのか。
「やはり握り。例えば同じネタ、同じ米を使っても、その道30年の職人と素人に毛が生えたような人とでは味がまったく違う」
河岸氏はこう前置きして、その魅力を語る。
「シャリが温かいというのが重要なポイントで、一粒一粒が潰れることなく、寿司の形を保っていながら、口に入れるとサラッとほぐれて、ネタと混ざり合う。これがプロの握りですよ。甘えびの握りはあまりに繊細で、寿司下駄などに置かずに職人の手から客の手へと供されますし、軍艦巻きではないウニやイクラの握りで素材の味が堪能できるのも高級店の醍醐味です」
人生一度は大奮発して味わいたいものだ。