ハリウッドで活躍する名優らの中にも、ミッキー・ロークやクリスチャン・ベール等々、役作りのために整形手術を施す役者は少なくない。日本でも三國連太郎が、映画「怪談」で老人役を演じるため、33歳にして歯を10本抜いたことはよく知られる話だ。悪役としての仕事を得るため、美容整形で頬を膨らませ、それが功を奏してスターへの階段を駆け上ったのが、「エースのジョー」こと宍戸錠だった。
宍戸は1954年、日活の第1期ニューフェースとして芸能界デビュー。しかし、当時は石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎など2枚目スターが目白押しの時代だ。
そこで宍戸が転身を図ったのが、悪役だった。だが、顔が優男すぎて迫力がない。というわけで、1956年に両頬にメスを入れて、プックリ膨らませることに。以降、40年以上にわたり、その顔をトレードマークとして仕事をこなしてきた。
そんな宍戸が頬から豊頬剤を取り出す逆整形手術に踏み切ったのが、44年10カ月(シシド)後の、2001年3月12日だった。
手術後の翌日、大坂北野病院で記者会見を行った外科副部長によれば、手術は3人の医師の立会いで6時間かけて行われ、
「豊頬手術の際に注入したオルガノーゲンという薬物を摘出したのですが、変形して石灰化しており、長さ9センチ。メスが通るかどうか心配されましたが、手術は無事終了し、経過は良好です」
宍戸自身は、退院が予定されている3月23日に会見を開くとして、筆者もスケジュール帳に日程を記していた。
ところが、である。当日、病院を訪ねると、なんともぬけの殻。実は宍戸、前日に病院を抜け出して、東京へと戻っていたのだ。スポーツ紙デスクは苦笑いしながらこう語った。
「実は手術前から病院にマスコミの取材が殺到し、中には病室まで訪ねてくる記者がいたらしく、本人もマスコミ対策に相当、頭を抱えていたようです。ただ、まさか極秘に病院を抜け出してしまうとはねぇ。術後すぐに人前に顔を晒すのは俳優としてのプライドが許さなかった、との憶測もありますが、なにせエースのジョーは型にはまらない男ですからね。要はいろいろ面倒だったということでしょうね」
そんな宍戸が3カ月後の6月10日、再整形を施した顔で初めて、トーク番組「おしゃれカンケイ」(日本テレビ系)に登場。手術前には「もうシシドには飽きた。膨らんだ顔をしぼませて、オールド・ジョーになりたいんだ」と語ったというが、術後、息子の宍戸開と瓜二つとなった顔に思わず、
「オールド・ジョーになるつもりで整形したのに、若返っちゃったよ」
と苦笑い。ともあれ、3カ月遅れでの「ニューフェース」初披露に、23日に〇が付いたスケジュール帳を眺めながら、ふと悔しい思いが蘇ったのだった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。