高校通算最多記録の140本塁打を放ち、米国の名門スタンフォード大に進学する花巻東高校の佐々木麟太郎が進学決定後、初めて記者会見を開いた。
花巻東といえば、佐々木の父親である佐々木洋監督が大谷翔平や菊池雄星に、夢を叶えるための9×9=81マスの「マンダラチャート」を書かせ、メイン目標に辿り着くための論理的思考力を養わせた教育方針が有名だ。会見での佐々木の言葉も、なかなかに奥が深かった。
「覚悟を持って決断しました。人生においての可能性をいかに広げていくのかが大事だと思っています。偏ることなく勉強も野球も両方100%で学んで、知識、知恵をつけて思考を磨いていきたい。野球の部分では技術、フィジカルの部分で教養をつけていきたい」
「まだまだ未熟ですが、2年後以降にMLB、またはNPBのドラフトで指名をいただけるチャンスもある。自分の粗削りな部分をレベルアップしたい。理想は2年後、3年後のドラフトで指名をいただければ嬉しい。それを選択肢のひとつとして考えています」
「学業と野球の二刀流」を目指す佐々木をバッシングする司会者や老害コメンテーターは、あまりに米国スポーツを知らなさすぎる。佐々木の大先輩にあたるタイガー・ウッズは大学2年生に上がるタイミングでプロ入りを表明し、スタンフォード大を中退。その7カ月後に史上最年少の21歳3カ月でマスターズを初優勝している。
しかも佐々木は会見の最後に「経営学を学びたい」と意欲を語り、今から選手引退後のセカンドキャリアまで考えていることが明らかになった。
大谷と山本由伸が移籍したドジャースが2012年に経営破綻寸前に陥った際、救済の手を差し伸べたのはNBAのレジェンド、元ロサンゼルス・レイカーズのマジック・ジョンソン氏と現オーナーのマーク・ウォルター氏らの出資グループだった。ジョンソン氏はレアル・マドリードから巨人やヤクルト、ソフトバンクまで、国内外の有名チームのユニフォームなどアパレル展開をするスポーツライセンス企業、ファナティクス社の役員も務めている。
大谷はウォルター氏とGMが辞任したら自らもドジャースとの契約を解消する付帯条件をつけるほど、ウォルター氏に心酔している。佐々木が進路を決める際、大谷からロス流のスポーツビジネスにまで視野を広げて助言されている、と考えた方が自然だろう。
今年の箱根駅伝で優勝した青山学院大学陸上部の原晋監督はフジテレビの報道番組で「佐々木君には東大に行ってほしかった」と話していたが、この発想が日本の大学スポーツの停滞を招いている。
PL学園出身の巨人・桑田真澄2軍監督が早稲田大学を蹴って読売巨人軍に入る前、なんと40年以上も前から日本の大学野球は「個性的な高校球児」を潰すことが問題視されてきた。
野茂英雄氏もイチロー氏も大谷も大学に進学せず、仰木彬氏や栗山英樹氏のような「個性を尊重する」指導者に恵まれたからメジャーに行けたのだし、桑田2軍監督が東京六大学を蹴ったおかげで、高校生アスリートが青山学院大学を目指し、元ホワイトソックスの井口資仁氏やレッドソックスの吉田正尚を生んだ。
2028年ロス五輪を目指して、高校生アスリートが続々と佐々木のあとを追う日が来るかもしれない。
(那須優子)