全日本プロレスがジャンボ鶴田VS超世代軍から三沢光晴、川田利明、田上明、小橋健太(現・建太)の四天王時代に移行する1992~93年、新日本プロレスも新たな展開を迎えた。天龍源一郎率いるWARとの対抗戦である。
天龍が90年春に全日本を退団して参加したSWSは、わずか2年後の92年6月に崩壊。天龍は42歳にして新団体WARを旗揚げした。
当時、週刊ゴングの天龍番だった筆者は、WAR旗揚げを目前にした天龍にインタビューして「全日本で13年培ったものをSWSのたった2年で食い潰されてたまるか。俺は身軽になったから、何でもやれる状況になった。長州、俺は引退試合をお前とやるから!」という言葉を引き出した。
42歳のプロレス団体旗揚げは、当時としては史上最年長。天龍は死に場所を探していたのである。
長州力は「ゴングさんに天龍の話が出ていたけど、俺個人の戦いの中には天龍個人も入っている」と、即座に呼応した。当時の長州は、新日本のトップレスラーの1人であると同時に現場責任者。天龍の発言に呼応したのは85年1月から87年2月までジャパン・プロレスを率いて全日本マットでしのぎを削った天龍への友情、そして現場監督として新日本の今後のビジネスを考えてのことだった。
長州はWARの初のビッグマッチとなった9月15日の横浜アリーナに越中詩郎率いる反選手会同盟(のちの平成維震軍)を派遣。11月23日の新日本の両国国技館には天龍が乗り込んだ。
天龍はWAR旗揚げ戦で「長州が尊敬する人(アントニオ猪木)とも一度肌を合わせてみたい」と発言しており、この両国では長州と猪木をリングに呼び入れて改めて宣戦布告。猪木が「お前ら歴史に残るような試合をやれ。勝者に俺が挑戦してやる!」と返答したことにより、翌93年から新日本VS天龍WARという新たなうねりが生まれた。
形としては新日本とWARの団体対抗戦だが、ファンにとって天龍は、かつてジャンボ鶴田、スタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディと死闘を展開し、ジャイアント馬場をピンフォールした元全日本のトップ選手。この対抗戦に新日本VS全日本を重ね合わせた。それが現場監督としての長州の狙いでもあった。
天龍にしても「俺は〝ジャンボ、ハンセン、ブロディと互角に戦い、馬場さんにも勝った全日本上がり〟っていうのを勝手に背負って新日本のリングに上がっていたよ」と述懐する。
長州現場監督は93年の新日本のビッグマッチの主役に天龍を据えた。1月4日の東京ドームでは自ら天龍の相手として出陣して、6年4カ月ぶりの一騎打ち。超満員札止めの6万3500人を動員した。
この試合は天龍がパワーボムで勝利。天龍VS猪木の機運が高まったが、4.6両国では長州が雪辱したため、5月3日の新日本の福岡ドーム初進出では、長州と天龍がコンビを結成して猪木&藤波辰爾と対決。猪木と天龍の初対決は超満員5万5000人を動員した。
その後、天龍はWAR1周年興行の6.17両国で橋本真也に勝利。闘魂三銃士の中で武藤敬司、蝶野正洋の後塵を拝していた橋本は「ここでダメなら、しばらく浮上の目はないぞ!」と長州に言われながら、新日本のシリーズを休んでWARに参戦して〝打倒! 天龍〟に懸けていた。
夏の「G1クライマックス」両国7連戦も主役は天龍。長州が右アキレス腱断裂で戦列を離れると、天龍が代わりに7連戦に出場した。G1本戦には出なかったものの、最終戦8月8日大会のメインで橋本との再戦に勝利し、さらにWARの千葉幕張では蝶野、新日本の9.23横浜アリーナで馳浩に勝利。
新日本9.26大阪城ホールで藤波がグラウンド・コブラツイストでようやく新日本は天龍に一矢報いた。
しかし12月15日のWAR両国で天龍が藤波に雪辱。明けた94年1.4東京ドームでは超満員札止め6万2000人の大観衆を集めて猪木VS天龍が実現して天龍がパワーボムで激勝。天龍は「馬場、猪木のBIをフォールした唯一の日本人レスラー」になった。
その天龍に勝ったのは、それまで天龍に2連敗を喫していた橋本だ。93年9・20名古屋でグレート・ムタを撃破してIWGPヘビー級王座を初戴冠した橋本は、2.17両国でジャンピングDDT3連発を決めて天龍に初勝利。
天龍に敗れた猪木は同年5月1日の福岡ドームから引退に向けてのファイナルカウントダウンを開始。天龍に勝った橋本は〝新日本の強さの象徴〟になった。
天龍は結果的に新日本が新時代に突入するための橋渡し役を担ったのだ。「その頃は確かに若い三銃士をプッシュしていたんだけど、ドームなんかは入れ物がデカいから。まだ埋めるという部分では、ちょっとしんどい部分があった。何とか入れようとしたら源ちゃん(天龍)しかいなかったよ」とは、後年の長州の言葉である。
小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。