プロ野球はオープン戦が花盛り。開幕が近づいてきた。2月のキャンプ期間は自宅のテレビのCS放送で各チームの練習をチェックし、阪神、広島は沖縄のキャンプ地にも足を運んだ。現時点では阪神連覇の可能性が高い。驚いたのは「金の取れるノック」ができるようになったこと。岡田監督の目指す野球がチームに浸透していると感じた。
2月終盤の沖縄・宜野座の記者席でシートノックを見ていて、思わず「へ~っ」と声が出た。1軍の野手メンバーは内外野に捕手を合わせて約20名。一人もエラーをせずに流れるように進んでいく。エラーした選手は「もう一丁」とやり直すのだが、誰もジャックルも送球ミスもしない。終わった瞬間にスタンドのファンから自然と拍手が起きた。フリー打撃でホームランを打ったり、特守をやりきった後に拍手されることがあっても、シートノックが終わっての拍手は珍しい。エラーしないような簡単な打球ばかりを打っていたわけではない。長い間、阪神のキャンプを見てきたけど、これほど美しいシートノックを見たのは初めてやった。「これぞプロ」とうならされた。
岡田監督にシートノックを誉めると「プロですから」と平然としていたけど、阪神の昨年のエラー数85はリーグワースト。単純にエラーの数だけでは比べられないが、決して守備のいいチームではないと思っていただけに驚いた。広島のシートノックと比べても差は歴然としていた。広島は若い選手が多く、阪神より声は出ていたけど、何人かはエラーしていた。プロであってもシートノックをジャックルもせずに終えるのは簡単なことではない。
でも、よくよく考えると、昨季のゴールデン・グラブ賞は捕手・坂本、一塁・大山、二塁・中野、遊撃・木浪、外野部門で近本と阪神勢が過半数を占めていた。そして、このキャンプで劇的に変わったのは不安定やった三塁・佐藤輝の守備。連日の特守で足さばきがよくなったし、ゴールデン・グラブを狙えるほど成長した。
佐藤輝はノックで足腰を鍛えたことで、打撃にも好影響を与えている。普段は輝に辛口やった岡田監督も「守備うまなったよな。特守がよかったと思うよ。下半身で打てるようになるし」と珍しく誉めていた。ほんまにその通り。ノックで下半身を強化すると、自然と打撃もよくなる。佐藤輝に好調の理由を聞くと、昨年12月にアメリカのトレーニング施設「ドライブライン」で打撃フォームの改良に取り組んだことやと言う。「今までは上半身に頼りすぎていた」とも。まあ、アメリカまで行かなくても、多くの人が指摘していたことやけどな‥‥。打撃の基本は腕を振り回すのではなく、足を使って、腰で振ること。メジャーに憧れがあるから、アメリカの専門家に言われたら、やはり説得力が違うんやろな。
足回りを鍛えたら、自然といいフォームになるだけでなく、長いシーズンを乗りきる体力もつく。過去3年はどこかでガクンと成績が落ちる時期があったけど、今年はコンスタントに打てるかもしれん。それこそ30本、40本以上のホームランを打てる可能性がある。近本、大山はもともと安定して力を発揮できるタイプやし、佐藤輝が覚醒すれば、他球団は手がつけられなくなる。球団初の連覇を狙う岡田阪神に、いよいよ死角がなくなってきた。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。