一平さん、嘘だと言って。
ドジャース・大谷翔平とパドレス・ダルビッシュ有の初対決に松井裕樹のメジャーデビュー登板。テレビ各社が前日のメジャーリーグ開幕戦の興奮を伝えている日本時間の3月21日午前7時過ぎ、衝撃的なニュースが駆け巡った。
ロサンゼルスの現地メディア、FOXテレビ、そして同局のアナリストであるベン・バーランダー氏がSNSなどで、開幕戦終了後に大谷の通訳、水原一平氏が「ギャンブル中毒」をカミングアウトするとともに、違法なスポーツ賭博に興じていたとしてドジャース球団を解雇された、と発信したのだ。
地元紙ロサンゼルスタイムズも、水原氏が「スポーツ賭博の疑いで解雇された」と報道。ギャンブルで借金を作った水原氏は、大谷の銀行口座から6億8000万円をブックメーカー業者に送金していたという。
大谷の代理人は一部報道を認め、水原氏が大谷の私的財産を「窃盗」した疑いで刑事告訴を検討していると語った。
現時点で水原氏はまだ「推定無罪」だが、この賭博スキャンダルを最初にXで発信するなど、日本での速報のキッカケとなったのがFOXテレビであることに注目したい。2011年、ドジャース経営破綻のキッカケとなったのは当時の球団オーナーたるフランク・マッコート氏とFOXテレビの不透明な契約、という因縁があるからだ。
ドジャースとFOXテレビの関係は日本のプロ野球でたとえるなら、フジテレビとヤクルトぐらいに近しい。
2011年、球団の乱脈経営で資金難に陥ったマッコート氏は、ドジャース球団のテレビ放映権を持つFOXテレビと、17年間総額30億ドルの契約を結ぼうとしたが、マッコート氏がFOXテレビから3000万ドルを個人的に借り入れていたことが判明。オーナーによる球団資金の私的流用やマフィアとの関係、賭博疑惑まで浮上し、放映権をめぐる契約に大リーグ機構から待ったがかかった。ドジャースは大リーグ機構の管理下に置かれ、2011年6月27日、破産法適用の申請を行った。
昨年、大谷がドジャース移籍会見の際に、現オーナーもしくはアンドリュー・フリードマン編成本部長が退団すれば、自らの契約も解消できるとする付帯条項をつけ、現オーナー集団代表のマーク・ウォルター氏も「再び強い球団を目指す」と語った。それも2011年の球団経営破綻の古傷を引きずっているからだ
アメリカのスポーツ賭博は、州によっては合法ではある。だがエンゼルスとドジャースがあるカリフォルニア州では違法であり、特に本拠地周辺の治安悪化から、本拠地をブルックリンからロサンゼルスに移し、さらに一度破産した歴史を持つドジャース球団と現オーナーには「御法度中の御法度」だ。
FOXはドジャース球団と大谷代理人の「意向」に近い報道をしているのではないかと思われる。大谷は水原氏の行為に関し、どこまで事情を把握していたのか。パドレスとの開幕戦の8回表、ドジャース5点目となるタイムリーを放った大谷は水原氏とタブレットの映像を確認した後、進塁ミスでアウトになるという「大谷らしくない凡ミス」が出た。
あの走塁ミスは、試合後に起こる「嵐」を予感していたのだろうか。
(那須優子)