将棋界には現在、8つのタイトル(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖・叡王)があり、藤井聡太八冠が全冠を制覇しているのはご存じの通り。
タイトル戦は特に盛り上がるが、現在、ファンを最もエキサイトさせているのが、日本全国を8つのブロックに分けた団体戦で行われる「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」だ。
対抗戦は監督と、チームから選ばれた出場登録棋士4人の計5人が参加可能。対局は5本先取の九番勝負で行われ、持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールが適用される。
また、対局は「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれており、勝った棋士は次局にも出場するなど、独自のルールでゲーム性を高めている。
3月23日に放送された関東Bリーグ、4勝2敗で迎えた第7局では、3連勝中で波に乗る増田康宏八段が、名人3期の実績を持つ九州の佐藤天彦九段と対戦。じりじりとリードを広げ、勝利を目前にしていた増田八段だったが、8三に打った歩がまさかの「二歩」となり、反則負け。チームメイトの森内俊之九段と永瀬拓矢九段も、思わず「あああ~!?」と声を上げ、ガックリと肩を落とした。
将棋ライターが語る。
「1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールには、数々の『魔物』が棲んでいます。今回の『二歩』は、まさにそのひとつ。超早指しはスポーツに近い感覚が必要で、普段冷静な棋士が落とし穴にハマッてしまうことがあるんです。約20分で対局が終わるので、体調の変化も棋譜に現れやすい。増田八段も『あの筋はうっかりするんですよね。あの瞬間、迷ってしまって』と意気消沈していました」
この日は若手ホープの関東B・伊藤匠七段と九州・佐藤九段の対局でも、衝撃的なシーンが見られた。中盤から怒濤の攻めで、そのまま押し切るのではないかとみられた佐藤九段が一転、いきなり受けの一手を指すと、大盤解説の山根ことみ女流三段は「うわーー、指せない。これは…いやー、すごい!」と絶句。「クラッとしましたね」というコメントにファンは大盛り上がりだった。
3月30日には本戦トーナメント準決勝第一試合「関東A対中部」が放送される。杉本昌隆監督率いる中部は、愛弟子の藤井八冠が10局の予選を9勝1敗で駆け抜け、公式戦以上の強さを発揮している。早指しを得意としているだけに、他チームにとっては大きな壁となるだろう。
今後も思わず「アッ」と叫んでしまう展開が飛び出す可能性は大。将棋ファンは必見だ。
(ケン高田)