パトロールビデオを確認すると、前を走る馬に接触して馬がつまずき、その勢いで騎手が落馬。馬場に叩きつけられた瞬間、後続の馬の左後脚で蹴られてしまう。騎手はぐったりと横たわったままだった。
これは4月6日の阪神7レース(ダート1800メートル、4歳以上1勝クラス)での、落馬事故の様子である。
「JRAは4月11日になって、前日の午後7時49分に藤岡康太騎手が亡くなったと発表しました。まだ35歳という若さで、フェアプレー賞を4度も獲得している模範騎手のひとりでしたが、なんとも言葉が出ません…」(競馬ライター)
意識不明の状態が続く中、兄の藤岡佑介騎手は10日に、次のように説明していた。
「まだ意識が戻っていない状態です。経過を見ていますが、本人の頑張りに期待している状況で、僕たち家族も見守っているところです。たくさん心配してくださっていると思いますが、なんとか帰ってこれるように願っていてほしいと思います」
思い出すのは、昨年11月のGIマイルチャンピオンシップでナミュールに代打騎乗し、見事に勝利。まさに代打逆転ホームランだった。
昨年6月に生まれたばかりの長男をとても可愛がっており、子供の話をするのが大好き。GⅠ勝利後も「帰って子供をお風呂に入れなきゃ」と話したエピソードが、ファンの涙を誘っているという。
騎手に落馬はつきものとはいえ、命を落とすまでの悲劇を前に、競馬界は衝撃に包まれている。
「3月24日には高知競馬で25歳の塚本雄大騎手が雨中の泥んこレースで落馬し、頭から転落。その日のうちに死亡が確認されました。地元の子供たちとも交流のある若手ホープだったこともあり、その悲しみは尋常ではなかった。JRAではクリストフ・ルメール騎手が3月30日のドバイでのレースで落馬し、鎖骨と肋骨を骨折、さらには肺に穴が開く重傷を負いました。骨折に伴って肺に穴が開くのは、自転車ロードレースの落車でもよく起こるケガ。騎手は馬に、ロードレーサーは自転車に、生身のまま乗って猛烈に加速し、落ちるとそのまま地面に叩きつけられることになる。ルメール騎手はまだラッキーでしたが…」(前出・競馬ライター)
4月14日のGI皐月賞(中山)では、康太騎手の兄・佑介騎手がミスタージーティーに騎乗する予定となっている。弟の死の直後だけに、尋常ならざる心境で馬を捌くことになろう。弔いの牡馬クラシック1冠目、こんな悲しみのGIを、ファンはどんな心境で見ればいいのか…。
(飯野さつき)