メジャーリーグで昨年から導入された、投球間隔に関するルール「ピッチクロック」が、にわかに物議を醸し始めている。各球団のエース級投手に、次々と故障が発生していることがその原因だ。
昨年サイ・ヤング賞を受賞したヤンキースのゲリット・コールが右肘の違和感で開幕に間に合わなかったほか、2020年サイ・ヤング賞のシェーン・ビーバー(ガーディアンズ)や、ヤンキースのホナタン・ロアイシガが、トミー・ジョン手術を受けることが発表された。
さらには昨年20勝を挙げたスペンサー・ストライダー(ブレーブス)も、右肘靱帯損傷でトミー・ジョン手術を受ける可能性が出ており、昨年まで3年連続2桁勝利のフランバー・バルデス(アストロズ)も、肘の炎症で故障者リスト入りしている。
相次ぐ主力投手の故障に、メジャーリーグ選手会は、
「塁上に走者がいる時のピッチクロックが今季から、20秒から18秒に短縮された。それと関連があるのでは」
との懸念を表明している。
試合時間の短縮を目的に、メジャーリーグで昨季から導入されたピッチクロック。無走者の場合は15秒、有走者の場合は20秒以内に投球動作に入らなければ、1ボールが自動的に追加される。今季はさらなる時短を目指して、有走者時のピッチクロックが2秒短縮されたのだが、
「昨年の効果がきちんと検証されてもいないうちに、さらにルールを厳しくしたことついて、コミッショナーを批判する声が出ているのです」(スポーツ紙デスク)
投球間隔の時短が、なぜ故障につながるのか。ドジャースの大谷翔平は4月8日、ツインズ戦を前に、ピッチクロックがもたらす体への負担について、こう言った。
「自分の感覚として、それはあるんだろうなと思う。レスト(休養)、リカバリー(回復)というか、短い時間で多くの仕事量をこなすというのは、やっぱり負担自体は間違いなくかかっているとは思う」
大リーグ機構は、肩と肘への影響はピッチクロックだけが原因ではない、と反論。確かにトミー・ジョン手術をしなければならないような故障は、以前から増加傾向にあり、球速や投球の回転率の増加が関連している、との説もある。
「平均球速が上がれば、肘や肩への負担は増すということですね」(前出・スポーツ紙デスク)
大谷はこうも話している。
「自分のベストのボールを投げ続けなければいけない。手を抜くではないですが、軽く投げていくシチュエーションは、先発ピッチャーでもなかなか少ないと思う」
つまりはピッチクロックによって、常に全力投球しなければならない状況が生まれているのだと。
打者のレベルが年々向上する中で、投手に対する制限が強まれば、故障のリスクは高まる。せめて投球間隔を少しでも長くすれば、その間、肘を休めることができる。だが試合時間の短縮という課題の中では、相反することなのだろう。
「大谷のような、発言に影響力のある人気選手の発言が、ピッチクロックを考え直すきっかけになってほしいですが」(前出・スポーツ紙デスク)
観客減に歯止めをかけるための時短とはいえ、主力投手の相次ぐ戦線離脱が試合の魅力を削いでしまっては、本末転倒ではなかろうか。
(石見剣)