4月6日に行われた阪神競馬第7レースで落馬負傷し、意識不明のまま4月10日にこの世を去った藤岡康太騎手(栗東・フリー、享年35)。悲運の死の3日後から開催された中央競馬(中山、阪神、福島)は、さながら天国に旅立った康太を偲ぶ「弔い競馬」の様相を呈し、スタンドに詰めかけたファンをはじめ、列島は「号泣」に包まれた。
最初のドラマが展開されたのは、4月13日の中山グランドジャンプ(J・GI、芝4250メートル)。この日、イロゴトシ(牡7)に騎乗してレースに臨んだ黒岩悠は、他馬を3馬身引き離して迎えたゴール直前、チラリと後ろを振り向いて後続との距離を確認すると、渾身の鞭を振るいながら、天にも届く声で次のように絶叫したのだ。
「康太、康太! 勝ったぞ!」
親交の深かった康太に向けて発せられた勝利の雄叫びは、JRA(日本中央競馬会)が公式YouTubeで公開しているジョッキーカメラ(騎手目線のレース動画)にもハッキリと記録されている。競馬ファンからは「このジョッキーカメラ見て泣かない人いるのか」「涙腺崩壊」「胸が熱くなる」などの感動の声が相次いだ。
続く14日に福島競馬場で行われたリステッド競走の福島民報杯(芝2000メートル)では、康太と同期の丸田恭介が騎乗するリフレーミング(牡6)が、4コーナー13番手から目の覚めるような直線一気を決めて快勝。レース後、丸田は涙腺を緩ませながら、
「もともと康太が乗っていた馬だけに、今日はレース前から思い入れが違った。康太に恥ずかしい競馬は見せられない、という思いでした」
リフレーミングの初勝利を挙げたのは、康太だったからだ。
そして迎えたGI・皐月賞(中山・芝2000メートル)。康太が入厩当初から丹念に稽古をつけて育て上げ、皐月賞の2週前追い切りと1週前追い切りにも騎乗していたジャスティンミラノ(牡3)は、最後の直線で前を走るジャンタルマンタルを一気に捕らえると、猛追するコスモキュランダをわずかに振り切って優勝を果たした。
この時、同馬を管理する友道康夫調教師は我を忘れ、スタンドから「康太! 康太! 康太!」と連呼していた。そして目を真っ赤にして引き上げてきた鞍上の戸崎圭太を迎えるや、友道師をはじめ、厩舎関係者は号泣して顔をクシャクシャにしたのである。
「最後の差は康太が後押ししてくれた。康太、ありがとう」
とは、レース後のインタビューで涙ながらに絞り出した戸崎の言葉である。
不幸にして康太はこの世を去ったが、その存在は今後も人々の記憶の中で、ずっと生き続けるに違いない。
(石森巌)