春の珍事で終わりそうにない強さを感じる。昨年のセ・リーグ最下位の中日が開幕ダッシュに成功した。各チームと一回りずつ対戦して首位に立ち、10勝に1番乗りした。
昨年から投手陣はよかったが、4番中田の頑張りで課題の貧打が解消されてきた。一人、ドッシリした打者が入ると、周りの選手が楽になる。中田も巨人時代より体が動いているし、打席の中で何とかしようという姿勢を感じる。5番の細川も中田の後ろで肩の力が抜けて、楽に打席に立てているように見える。同じ右の長距離砲として、相手バッテリーの攻め方も参考になっているはず。
それと、3番の高橋周平が開幕から存在感を見せていた。近年は迷走して打撃フォームを崩していたけど、入団したての一番いい時期のスイングに戻った。ところが、4月17日に右ふくらはぎを痛めて登録抹消となった。いつも言うように、レギュラーは1年間試合に出続けていいプレーをするのが最低条件。せっかく首脳陣の信頼を取り戻しつつあったのに、1カ月ももたなかったのは情けない。本人が一番悔しがっていると思う。
中日にとって高橋の離脱は痛いが、上がり目もある。右肩を痛めて出遅れていた岡林の1軍復帰が近い。2年連続ベストナインになった選手やし、打線の上位で固定できると得点力がアップする。それに、調子が上がらず開幕2軍スタートの髙橋宏斗も1軍に上がってくれば、先発投手陣の層はますます厚くなる。選手が自信をつけて、その気になってくれば面白い。近年はオリックスもヤクルトも前年の最下位から優勝してるんやから。
中日と対照的に、昨季の日本一チームの阪神は予想外の低調なスタートとなった。オープン戦は貧打で苦しんでいたが、本番になるとスイッチが入ると思っていた。ところが、森下、大山、佐藤輝という中心選手がそろって不調に陥った。打率2割にも満たないようでは、打線がつながるはずがない。大きいのを打つことを意識しすぎているのか、3人ともバットが下から出ているように見える。それでは速いストレートに振り遅れてしまうから、甘い球を打ち損じるケースが目立っている。いつの時代も打撃の基本はレベルスイングで振り抜くこと。
それと、3人ともボールの見極めが悪い。全打席でホームランを狙っていた門田博光がよく言っていた。「ストライクゾーンの球さえ振っていたら最低でも2割5分は打てる」と。通算567本塁打の男の言葉だけに説得力がある。だけどほんまにその通り。ボール球をヒットにするのは難しいし、フォームを崩す原因となる。レベルスイングでストライクゾーンだけ振ることを徹底していれば、打率3割とは言わなくても、2割5分は打てるはず。
それでも、阪神はいずれ上がってくるのは間違いない。3点取れば勝てる投手陣を持っているので大崩れすることがないんやから。近本、中野の1、2番コンビはやはり他球団にとっては脅威。大山、佐藤輝が普通の調子にさえ戻れば、簡単に負けるチームではない。経験豊富な岡田監督がこれからどう舵取りするか楽しみ。
昨季のセは阪神が途中から独走状態に入ったけど、今年はダンゴ状態が続くと思う。主力のケガが出たチームが脱落するシーズンになるのと違うかな。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。