現在、全天で最も明るいとされる恒星シリウスが、シリウスA(主星)、シリウスB(伴星)という2つの星からなる連星であることは、天文学の世界の定説だ。
シリウス伴星の存在を推定したのはドイツの天文学者ベッセルで、それが1844年。その後、1862年に屈折望遠鏡の発明により、ようやく肉眼で確認できることになった。天文学的にそれが「最初の白色矮星」と確認されたのは、それから遅れること60年以上後の1925年だった。
ところが、古くからの伝承の中心にシリウスを置き、そのシリウスからやって来た「水の主」ノンモが人類の祖となった、という宇宙創世神話を唱えてきた部族がいる。西アフリカにあるマリ共和国のバンディアガラ山に住む、ドゴン族だ。民俗学研究者の話を聞こう。
「ドゴン族が住むバンディアガラ断崖の標高差は500メートル。大きな断崖絶壁にあり、彼らはそこで700ほどの村に点在して農耕生活を営んでいます。ドゴン族に伝わる神話には、何千年も前から宇宙人と交信していた記録が数多く残されており、昔から天文学に長けた謎多き農耕民族として知られています」
ドゴン族の神話について最初に調査したのは、M・グリオールとG・ディテルランという2人のフランス人。ともに人類学者で、彼らは1930年代から20年間にわたり、ドゴン族とともに生活した。
ドゴン族から絶大な信頼を得る中、伝え聞いた神話を1950年に「スーダンのシリウス星系」というタイトルで、人類学関係の雑誌に発表したのだが、
「ドゴン族の神話の中には、シリウスが主星と伴星からなる連星であること、またシリウス伴星の周期が50年であること、さらにはシリウス伴星が白色矮星であることを知っていた、とする記述が多く登場する。その後、2人は20年に及ぶ部族とのやり取りの中で、部族の中でも神官などごく一部の人物だけしか知らない伝承をまとめた著書『青い狐』を1965年に出版し、世界の民俗学者らの間で大きな話題になりました」(前出・民俗学研究者)
だが1925年に「最初の白色矮星」が確認されていたこともあり、「後付けではないか」と著書に異を唱える専門家は多い。中には「シリウスの知識は、この地を訪れた宣教師がドゴン族に伝えたもの」との声もあった。
「確かに民俗学の世界では、宣教師が伝えた生活や文化が原住民の間で広がる、という現象があることは、よく知られる話。ただ、なぜ宣教師がアフリカの奥地にある標高差500メートルの断崖絶壁で暮らす原住民を訪ね、シリウスの話を伝える必要があったのか。ドゴン族は主星シリウスAを『シギ・トロ(シギの星)』と呼び、60年ごとに『シギの祭礼』という仮面儀式を開いていますが、これは数百年の歴史を持つもの。つまり1900年代に入って宣教師が伝えたという説は、どう考えても無理があることになります」(前出・民俗学研究者)
ではいったい誰が、ドゴン族にシリウス神話を伝えたのか。ここは原住民に直接聞くしかないような…。
(ジョン・ドゥ)