芸能

緊急追悼連載! 高倉健 「背中の残響」(13)女性に対して真摯すぎる

20150115r

 高倉健の俳優人生は、大きく3つの時期に分けられる。ヒット作に恵まれなかった若手時代、大スターに躍り出て撮影に明け暮れた時代、そしてフリーとなって作品を吟味するようになった時代──。いずれにおいても映画への取り組みに手を抜いたことはないが、火の粉は、思いがけず降りかかった‥‥。

「私、大きな声を出さなかった?」

「いや、出さなかったよ」

 居酒屋で知り合った男と女が一夜で深い仲となる。名作「駅 STATION」(81年、東宝)の1コマだ。

 その直後に「樺太まで聞こえるかと思ったぜ」と胸のうちでつぶやく。高倉健(享年83)には珍しく笑いを誘うモノローグだったが、倍賞千恵子を相手にした幻想的なラブシーンもまた、珍しい‥‥。

 生涯で205本もの映画に出演しながら、およそ濡れ場とは縁がなかった。東映専属として最後の作品になった「神戸国際ギャング」(75年)では、絵沢萠子の顔に雑誌をかぶせたカラミが物議を醸したが、これが唯一の“例外”だ。

 高倉のデビュー間もない頃から東映の企画担当として見続けた吉田達は、ある映画を引き合いに出す。出世作となった「昭和残侠伝」(65年)である。

「健さん演じる清次と恋仲の綾役が三田佳子で、綾の兄役が池部良さん。三田ちゃんがそれぞれにしがみつく場面があるんだけど、俊藤浩滋プロデューサーが怒るわけです」

 恋仲の高倉にしがみつくよりも、実の兄の池部にしがみつくほうが何倍も色気が出ていると──。これに対し若手女優だった三田も、敢然と言い放つ。

「俊藤さん、違うんです。高倉さんの顔を見ると色気が消えちゃうんですよ」

 これには任侠映画の立役者である俊藤も苦笑いするしかなかった。吉田は何かにつけ、高倉に「女あしらい」について助言をした。

「健ちゃん、もし刑事みたいな顔してベッドシーンをされたら、女優が困っちゃうよ」

 吉田は俊藤や音楽担当の菊池俊輔とともに、一計を案じた。当時、「昭和残侠伝」の撮影に栃木・宇都宮の石切り場を使っていたが、街ですれ違った女を見て俊藤が高倉に言う。

「健坊、あの女は抱かれても週刊誌に言わないぞ」

「何でわかるんですか?」

 驚く高倉を尻目に、俊藤はなおも言う。

「健坊はもっと女を知ったほうがいい。腰から下に人格はないんだから。そうとわかったらタツ、交渉して来い」

 吉田は俊藤の命を受け、高倉健が話をしたいと言っていると告げる。女は俊藤がにらんだように、緊張のそぶりも見せず答えた。

「いいですよ、でも6時からキャバレーに入るので、店に来てくれるなら」

 4人はキャバレーで過ごし、女の部屋に招かれる。手製のラーメンを平らげ、俊藤は高倉を1人残す。

「健坊、頑張れよ」

 ところが高倉は、ほどなくして部屋から出てくる。

「僕は愛情がない女とはできません!」

 それが高倉健である。後年、フリーとなって初めて東映に舞い戻った「冬の華」(78年)でヒロインを演じた池上季実子は、初対面の印象をこう語った。

「言葉数は少ないけれども、やさしい慈しみを感じました。私には『無類のやさしさを秘めた賢人』というイメージです」

 三田佳子がそう思ったように、一瞬で男と女に陥るタイプではなかった。

カテゴリー: 芸能   タグ: , ,   この投稿のパーマリンク

SPECIAL

アサ芸チョイス:

    デキる既婚者は使ってる「Cuddle(カドル)-既婚者専用マッチングアプリ」で異性の相談相手をつくるワザ

    Sponsored

    30〜40代、既婚。会社でも肩書が付き、責任のある仕事を担うようになった。周囲からは「落ち着いた」なんて言われる年頃だが、順調に見える既婚者ほど、仕事のプレッシャーや人間関係のストレスを感じながら、発散の場がないまま毎日を過ごしてはいないだ…

    カテゴリー: 特集|タグ: , |

    これから人気急上昇する旅行先は「カンボジア・シェムリアップ」コスパ抜群の現地事情

    2025年の旅行者の動向を予測した「トラベルトレンドレポート2025」を、世界の航空券やホテルなどを比較検索するスカイスキャナージャパン(東京都港区)が発表した。同社が保有する膨大な検索データと、日本人1000人を含む世界2万人を対象にした…

    カテゴリー: 社会|タグ: , , , |

    コレクター急増で価格高騰「セ・パ12球団プロ野球トミカ」は「つば九郎」が希少だった

    大谷翔平が「40-40」の偉業を達成してから、しばらくが経ちました。メジャーリーグで1シーズン中に40本塁打、40盗塁を達成したのは史上5人目の快挙とのこと、特に野球に詳しくない私のような人間でも、凄いことだというのはわかります。ところで、…

    カテゴリー: エンタメ|タグ: , , |

注目キーワード

人気記事

1
長与千種がカミングアウト「恋愛禁止」を破ったクラッシュ・ギャルズ時代「夜のリング外試合」の相手
2
日本と同じ「ずんぐり体型」アルプス山脈地帯に潜む「ヨーロッパ版ツチノコ」は猛毒を吐く
3
沖縄・那覇「夜の観光産業」に「深刻異変」せんべろ居酒屋に駆逐されたホステスの嘆き
4
段ボール箱に「Ohtani」…メジャーリーグMVP発表前に「疑惑の写真」流出の「ダメだ、こりゃ!」
5
巨人が手ぐすね引いて待つ阪神FA大山悠輔が「ファン感謝デー」に登場する「強心臓」