ドジャース・大谷翔平が、ついに「ゾーン」に突入したように見える。このままの状態を維持すれば、過去にたった1人しか達成していない「両リーグMVP」や、史上5人目の「両リーグ本塁打王」タイトル獲得も夢ではない。
両リーグにまたがって活躍するのは難しいことだが、それは日本球界でも同じだろう。セ、パ両リーグで偉業を達成した大杉勝男という野球選手がいる。通算本塁打数(486本)、通算打点(1507)ともに歴代9位の記録だが、特に史上初の両リーグ1000試合出場、1000安打を達成した選手として知られている。
パ・リーグの東映、日拓、日本ハムを経て、セ・リーグのヤクルトへ移籍。本塁打と打点王にそれぞれ2回輝いたが、残念なことに1992年4月30日、肝臓ガンのため47歳で亡くなっている。
大杉は様々なエピソードを残している。ヤクルト時代の1978年、巨人戦で乱闘になった際、ミスタージャイアンツと呼ばれたあの長嶋茂雄を殴り、元同僚の張本勲に羽交い締めで止められたのは有名だ。
東映時代に打撃フォームを崩した際には、当時の飯島滋弥打撃コーチから「月に向かって打て」とアドバイスを受け、試合で実践したことは今でも語り草になっている。
どちらかといえば、その風貌からコワモテなイメージがあるが、実は周囲を大爆笑させたことがある。身長181センチ、88キロの堂々たる体躯の持ち主で、実は「球界一の大足」と言われていた。
現役時代のチームメイトの何人かは当時、「スパイクのサイズは間違いなくチームで一番。30センチはゆうに超えていた。ジャイアント馬場さんの16文より大きい」と証言している。
春キャンプ中だったか公式戦の最中だったかわからないが、ある日、大杉のスパイクの片方が見当たらなくなった。当時はスパイクに背番号が入っておらず、サイズが同じ他の選手が間違って履いていくことがあった。
大杉の場合はというと、本人や関係者が総出で探しても、いっこうに見つからない。捜索の末、しばらく経って、こんな声が上がったという。
「猫がいます」
スパイクの片方を、親猫がくわえて持っていったのだろう。そのスパイクの中では、子猫が気持ちよさそうに寝ていたとか。そして大杉はその姿を、笑顔で眺めていた。なんとも微笑ましい、球界都市伝説のひとつである。
(阿部勝彦)