この6年間でJ1リーグの優勝4回、2位1回の実績を持ち、今季も優勝候補だった川崎フロンターレが苦しんでいる。
それを象徴したのが、5月15日に行われた第14節。降格圏にいたサガン鳥栖との敵地での対戦だった。
前半13分に「パリ五輪世代」のDF高井幸大がJ初ゴールを飾り、幸先よいスタートを切ったと思われたのだが…。サッカーライターが解説する。
「前半26分に鳥栖のシンプルなクロスボールに対応できず、あっさり同点に追いつかれると、前半だけで3失点。川崎Fも前半のアディショナルタイムに1点を取り返し、追い上げムードが漂いましたが、後半2分にコーナーキックからゴールを献上した。さらに守備陣の崩壊はとまらず、自陣のコーナー付近でボールを回している最中に奪われ、鳥栖のFW河田篤秀がゴールという醜態をさらし、結局は5―2の大敗となりました」
14節終了時点で、4勝6敗4分の13位。不調の原因について、前出・サッカーライターはこう話す。
「5失点は第2節のジュビロ磐田戦に続いて、早くも2回目です。センターバックをなかなか固定できず、ここまで失点0に抑えたのは4試合のみ。しかし、それより深刻なのは攻撃陣です。『黄金時代』のダイナミズムとアイデアにあふれた川崎Fらしさは影をひそめ、チャンスの回数も少なく、好不調の波が激しくて勝ち切れないんです」
上位陣の背中が遠くなるどころか、このままでは降格圏争いに巻き込まれそうな非常事態だ。そんな中、「あの選手がいてくれたら…」と、サポーターが思い浮かべずにいられないのが、現在はヴィッセル神戸のMF宮代大聖の存在だろう。
14節のアビスパ福岡戦。FW大迫勇也がフワリとした縦パスを送ると、前線に抜け出した宮代がディフェンダーを振り切り、ノートラップのランニングボレー。「キャプテン翼」の新田瞬を彷彿させるスーパーゴールが決勝点になって、チームは首位をキープ。宮代自身も3試合連続弾で、得点数3位タイの7ゴール目となった。
2000年生まれの宮代は、川崎Fのアカデミー育ち。18年にトップチームに昇格すると、クラブ史上初の高校生でのプロ契約を結んだ。
その後、レノファ山口、徳島ヴォルティス、鳥栖に期限付き移籍で武者修行。昨シーズンより川崎Fに復帰すると、J1に30試合出場で8ゴールを記録している。
「ポテンシャルの高さを随所に見せていましたし、今季こそ宮代がエースになってブレークすると期待されていたんです。それが、まさかの神戸に完全移籍。しかも昨季の王者である神戸では、元日本代表の大迫やFW武藤嘉紀とポジション争いをしなければならず、試合に出場するのも難しいという声もありました。ところが開幕するやいなや、点取り屋の才能が早くも覚醒。大迫も加入を絶賛するほどの貢献で、欧州のクラブが本腰を入れて獲得に動き出していると聞いています」(前出・サッカーライター)
低迷する川崎Fにとって、逃した魚は大きすぎた。だが、待ったなし。降格争いへと落ちる前に上位へ浮上するためにも、宮代に代わる「救世主」が登場しなければならないだろう。
(風吹啓太)