サッカーの欧州リーグで活躍する日本人選手の今シーズンを振り返る「海外サッカー日本人プレイヤー/リアル通信簿2023-2024」。
忖度なしのレーティング企画(5点満点)の第3回で取り上げるのは、5月29日に国立競技場で行われた「REAL SOCIEDAD JAPAN TOUR 2024」で、東京ヴェルディを相手に格の違いを見せた、スペインのレアル・ソシエダ所属のFW久保建英だ。
今季のソシエダは、チームの「顔」で魔術師と呼ばれたMFダビド・シルバが、開幕戦の約2週間前に電撃引退を発表するという波乱のスタート。これは、久保にとって大きな痛手となったかと思われた。その理由をサッカーライターが話す。
「スペイン代表でユーロ連覇、W杯優勝など経験豊富なベテランは、久保の才能を最大限に引き出し、阿吽の呼吸でソシエダの攻撃を活性化させていました。2人は『師弟関係』と呼ばれるほど、シルバは久保のサッカー選手としてレベルを大いに上げくれた存在でした」
しかし、シルバがチームを去ったことで動揺が広がる中、第1節のジローナ戦でサポーターらの心配を払拭したのは久保自身だった。
「右ウイングで先発すると、開始5分でいきなり結果を出しました。グラウンダーのクロスに反応すると、左足で合わせて先制弾。試合は引き分けでしたが、第4節のグラナダ戦では2ゴールを奪うなど、序盤戦から大暴れ。12節を終了した時点で、試合で最も活躍した選手に贈られる『マン・オブ・ザ・マッチ』に6度も選出されたのは異例です」(前出・サッカーライター)
一躍、ソシエダの新しい「顔」になった久保は、チャンピオンズリーグでも攻撃を牽引。チームは10年ぶりの出場ながらグループリーグを首位で突破し、地元はお祭り騒ぎとなった。この久保の成長について、前出のサッカーライターはこう指摘する。
「シルバが抜けたことで自覚が芽生えたことはもちろんですが、一番は目覚ましい肉体の進化でしょう。173センチと小柄ですが、太腿が丸太のようにぶっとくなりました。屈強なディフェンダーにプレスを掛けられてもビクともせず、キーパーの手を弾き飛ばすほどシュートの威力が増加。ドリブルの切れ味はもともと折り紙付きでしたから、手のつけられない存在にまで昇華したと言えます」
確かに、あのレアル・マドリードでさえ、久保に対してはバスケのようなダブルチーム(2人がかり)で対応していた。
一方で、今季はプレー以外でも久保の才能が開花していた。取材陣の間では「久保語録」と期待されるほど、ファンタジスタな発言を連発しているのだ。
5月28日に日本へ凱旋帰国した際に、久保はパリ五輪の不参加について言及したが、「そもそもみんなで話して決まった結論。僕がどうしても行きたかったとか、そういう話もないです」と、まさかの塩発言。涙の東京五輪リベンジを期待したメディアをびっくりさせたのだ。だが、一事が万事このような調子で、率直な思いをぶっちゃける久保の評価はうなぎ上りだという。
取材陣へのストレートな「久保語録」を遡ってプレイバックしてみよう。
【24年4月26日 レアル・マドリード戦でゴールを決めたが、直前に味方選手がボールを奪ったプレーがVAR判定でファールを取られ、幻のゴールに】
「ボールを失った選手が眠っていた。チャンピオンズリーグなら笛が吹かれるとは思わない」
「眠っていた」と揶揄されたレアルのMFチュアメニは、SNS上で眉が上がった顔の絵文字で反論している。
【23年12月22日 1月に開幕するAFCアジア杯カタール大会について】
「この期間にやるのはちょっとどうなのかな、と僕個人としては本当に思う」
さらに勝ち進めばチャンピオンズリーグの1回戦で対戦するパリ・サンジェルマン戦に影響が出るため、
「(日本代表に)呼ばれた以上は行くしかない。そこは呼ばれたら、気持ちは何だろう…。残念な気持ちはあるけど、そこは割り切って、選ばれたからには頑張ろうと」
【23年10月17日 日本代表のチュニジア戦後にし烈なポジション争いを聞かれて】
「厳しいですよ。羨ましいです、一昔前の日本代表が。いいメンバーはいたけど、さすがに今の2列目はあんまり見ない。すごいビッグネームがいるわけじゃないけど、実力が確かな選手ばかりなので」
聞いたOBたちがピリついていないか、思わず心配してしまうほどだが、レアル・ソシエダの「顔」となった久保には説得力しかなかった。
こうした「久保語録」について、スポーツ紙記者はこう話す。
「活字にすると嫌味に聞こえることもありますが、スペイン語も現地の人が『本当に日本人か?』と、目を丸くするほどペラペラですし、とにかく頭の回転が早く、ユーモアのセンスが抜群。毎回、見出しになるような言葉を用意してくれるので、報道陣はかなり助かっていますね」
ということで、遅ればせながら通信簿に入ろう。今季は30試合7ゴール4アシストを記録。序盤のインパクトに比べて、実は後半戦は物足りなかった。アジア杯では「できることはやったので、特に僕から反省すべきこととかはない」と、サバサバと敗退を受け入れたが、大会中のプレーははっきり言ってノーインパクトだった。
「久保語録」はやみつきになる味わいがあるだけに、採点は「3」以上を付けたいところだが、久保のプレーへの期待はやはり大きい。ここは後半戦の失速を重く見て、かなり厳しいが「2」としておきたい。
(風吹啓太)