みどりの窓口廃止騒動で大炎上したJR東日本だが、同時期、JR東京駅の商業施設「グランスタ」も大炎上していた。
「グランスタ」の地下1階は今年4月24日に惣菜、弁当売り場としてリニューアルオープン。それから1週間も経たず、グランスタ内に掲示された「母の日」向け広告がアップされるや、「マザコンのようで気持ち悪い」と物議を醸したのだ。
切符を模したデザインのポスターは「子どもに帰ろう、親孝行の始発駅グランスタ」のキャッチコピーとともに、切符の路線名が「Jr.親孝行線」、矢印がハートマークに。「子ども料金」と記載されているスペースには「ずっと小児」と書かれており、ラッシュの時間帯には通勤客が行き交う東京駅の客層柄「ずっと小児」という表現が不興を買った。
グランスタを運営するJR東日本の関連会社は、5月1日にこのポスターを撤去。リニューアルオープンの出鼻を挫かれた格好だが、肝心の駅弁もパッとしない。リニューアルした売り場の駅弁が「高すぎる」のだ。
東京駅ナカ、駅ソトの弁当は総じて「インバウンド価格」。最も多い価格帯は、幕の内弁当でも1500円から2000円で、有名レストランが出店した新店舗の弁当相場は、ステーキ弁当やカニ弁当など、2500円から3500円まで跳ね上がった。
東京駅構内で1000円札を出して買える駅弁は、昭和39年発売開始、上皇陛下が公務に出ていらした頃に年10回も召し上がっていたという「チキン弁当」や、崎陽軒の「シウマイ弁当」、両国国技館「やきとり」といった定番弁当のほか、数種類のみだ。良識的な値段のチキン弁当やシウマイ弁当でも、家族全員となるとなかなかの出費である。
もはや駅弁は旅情へといざなう旅の相棒ではなくなり、円安で日本にやってくる外国人観光客と富裕層しかすんなりと買えない贅沢アイテムになってしまった。ことごとくJR東日本の商業主義と、われわれ乗客の金銭感覚が噛み合わなくなっているのだ。
東京駅構内では立ち食いそばすら、1000円札が飛んでいく。ワンコインで空腹を満たすにはいったん改札を出て、八重洲地下街に繰り出すしかない。あるいは大丸百貨店や日本橋高島屋のデパ地下で買っても、1000円以内で収めることができる。
デパ地下に立ち寄れば、これから東北、上越、北陸新幹線に乗って帰路に着くと思しき家族連れが毎度、デパ地下弁当をめぐる攻防を繰り広げている。女児が宝石箱のように海鮮を散りばめたミルフィーユ寿司を手に取り「綺麗だから食べたい」「買って」と言うや、親や祖父母は「家に帰ったら海鮮なんて安くたくさん食べられるでしょっ」と却下しつつも、買うの買わないのとワチャワチャしている。
6月3日に北陸で再び、震度5強の地震があったばかり。次に日本のどこで災害が起きるかもわからない。1995年1月16日に神戸で三大豚まんを食べずに帰ったことを後悔している記者は、たとえJR各社の商業主義に乗っかるのがシャクに障っても「旅先で食べたいものは食べておけ」と助言したい。
(那須優子)