「あ~と、ひ~とりっ!」
勝利を待ちわびるコールで揺れる甲子園球場の観客席が、一瞬にして悲鳴へと変わった。
6月5日の楽天戦、阪神は8回まで2-1とリードし、9回表のマウンドには守護神の岩崎優が上がっていた。連敗脱出は間近だった。
しかし先頭打者の小深田大翔が岩崎からヒットを放つと、続く太田光が送りバントを成功させる。この一打同点のピンチに、岩崎は続く代打の石原彪を三振に打ち取った。すると、球場は「あと1人コール」に包まれたわけだが…。
続く、小郷裕哉がカウント3-1から放った打球は、無情にもライトスタンドに飛び込む逆転2ラン。阪神ファンは、一瞬にして地獄に落とされてしまったのだ。
前日の4日は、岩崎とWストッパーを担っていたゲラが、延長10回に3本の長短打を浴びて2失点して敗戦。同日、2軍降格を告げられたばかりで、頼みの綱はもう1人の守護神である岩崎しかいなかった。それだけに、この「あと1人」からの逆転負けの衝撃は大きかったようだ。在阪の野球記者が顔を曇らせる。
「似たような逆転負けの悪夢は、つい先日も見たばかりです。6月1日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)では、9回表に1点をもぎ取り2-1とリードしたものの、9回裏の二死、カウント3-2で『あと1球コール』に阪神ファンが沸く中、岩崎が友杉篤輝に同点タイムリーを浴びました。反撃する余力が残っていない阪神は、延長11回裏にサヨナラ負けを喫しました」
わずか4日の間に、9回二死からの逆転負けという屈辱を二度も味わったことは、ファン心理に相当大きく響いたようだ。実は、阪神ファンから「あと1人コールは止めたらどうだろう」という意見が、かなり多く投稿されているという。前出の野球記者が話す。
「あと1人コールは、昭和の時代にはどの球団のスタンドからもよく聞こえていたのですが、令和の現在では、阪神ファン以外からはあまり聞かれなくなりました。時代とともに『相手に失礼』『礼節を欠く』といった声が大きくなったことが理由です。ところが、阪神ファンの間では『伝統的な応援スタイル』として、肯定する声がまだまだ多いんです。ただその一方で、コールが味方投手のプレッシャーになっているという指摘が増えていました」
実際に、「あと1人」や「あと1球」コールについて、岩崎は「もうちょっとボール球を使いたいなと思う時もあるけど」と語り、大竹耕太郎は「あと1人と言われると、すごく疲れてくる」と、本音を口にしたことがある。
現状、決して阪神の不振脱出につながっていないコールだけに、一旦やめてみる…という勇気が、はたして阪神ファンにあるだろうか。
(石見剣)