とりわけ高齢者をターゲットに、有名人の名前をかたる投資詐欺やオレオレ詐欺が大きな社会問題になっている。だが、同じく社会問題になっていたにもかかわらず、江戸時代に横行した詐欺には、思わず笑いそうなものがある。それが「小便組」だ。
江戸時代は妾(めかけ)、今でいう愛人は一種の「職業」であり、武士や大商家が本妻とは別に愛人を持つことは特段、珍しいことではなかった。そこに目をつけたのが「小便組」という詐欺グループである。
まずは愛人を探している武士や大商人に、女性を紹介する。ひと昔前にあった「愛人バンク」といったところだろうか。愛人希望者は大半が浪人や町人の娘で、いずれも絶世の美女だったという。
これに下心丸出しの男たちが、鼻の下を伸ばさないわけがない。早速、多額の契約金を前金で支払い、愛人契約が成立となる。
ところが、愛人たちは貢がせるだけ貢がせて、ある時期がやってくると、寝小便をするようになる。それも一度だけではなく、毎晩のようにするようになるという。愛人たちは「実は病気。わざとじゃない」と泣きながら言い訳するが、もちろんわざとに決まっている。証拠はないけど。
男たちとて、涙する美女を叱るわけにはいかない。結局はお払い箱にするしかなくなるのだ。原因が病気では、契約違反だといって返金請求は難しく、男たちは泣き寝入りするしかなかった。そして美女たちは「次のターゲット」に向かう…という算段だ。
ところが、だ。男性陣の中にはこの「病気」を本気で心配し、医者に相談する者がいた。ある医者は、おねしょに効くツボである「中極」に、卵ぐらいの大きさのお灸を据えたという。
中極はヘソから指5本分、下にあるが、そこに大きなお灸を据えられてはたまったものではない。さすがの愛人女性もお灸の熱さに耐えきれず、その後、寝小便を断念。いつしか「小便組」は姿を消してしまった。
いつの時代にも詐欺のネタは転がっているが、殺伐とした現代の詐欺事件とは異なるような気がして仕方がない。
(道島慶)