さながら日本代表対決となった、ドイツ・ブンデスリーガの1部、2部入れ替えをめぐるプレーオフは、劇的な幕切れを迎えた。
FW浅野拓磨が所属する1部16位のボーフムと、MF田中碧が所属する2部3位のデュッセルドルフが対戦。第1レグで1部のボーフムがまさかの0-3で完敗し、崖っぷちで5月27日の第2レグを迎えた。
田中は先発出場し、浅野はスタメンを外れたわけだが、前半18分にセットプレーから先制し、試合の均衡が破れた。勝つだけではダメなボーフムは後半13分に浅野を投入すると、チームは21分と25分に立て続けにゴールを奪い、2戦合計スコアは3-3の振り出しとなって、スタジアムは興奮のるつぼと化したのだ。
試合は延長戦でも勝敗はつかず、運命のPK戦に。結果は、PK戦を制したボーフムが奇跡の1部残留となった。
5年ぶりのブンデスリーガ1部昇格を逃した田中はがっくり肩を落とし、逆にお祭り騒ぎのボーフムの浅野はチームメイトに肩車をしてもらい、上半身のユニフォームを脱ぐと、日本国旗を手に歓喜に酔いしれていた。
特に田中は、翌日のドイツ紙「ビルト」で6点という最低評価を受ける(ドイツでは1点が最高点で6点は最低点となる)、泣きっ面に蜂状態だったわけだが、明暗を分けたのもここまで。というのも、田中も浅野も「来シーズンは新チームへの移籍が既定路線」だからだ。
21年に川崎フロンターレからドイツに渡った田中は、常にブンデスリーガの2部を主戦場としていたが、フィジカル重視の肉弾戦バトルを求めて、かねてから本人もステップアップを熱望していた。そして、今季の冬の移籍マーケットではドイツ1部のチームに移籍目前と言われているわけだが、すでに1月に行われた「AFCアジアカップ カタール2023」でメンバー外になったのも、その移籍交渉が大詰めだからとささやかれていた。
ところが、その時点で移籍が実現することはなく、日本のファンの間では「だったら代表に呼んでほしかった」と、日本代表の森保一監督へ八つ当たりする声が聞かれたのも記憶に新しい。
その田中だが、デュッセルドルフとは25年6月まで契約が残っている。だが、25歳という年齢と移籍金が推定4~5億円の「お買い得商品」なだけに、複数のチームが関心を寄せているという。海外事情に詳しいサッカーライターが話す。
「今回の入れ替え戦の第2戦では酷評されているようですが、シーズンを通じては彼のゲームメイクや得点力は評価されています。ドイツ1部では、チャンピオンズリーグに出場するシュツットガルトのほか、マインツとボルシアMG、さらに全勝でリーグを制したレヴァークーゼンまでが注目しています。そのあたりに移籍してはたしてレギュラーになれるかについては疑問の声もありますが、現状モテモテであることは事実です。安くて伸びしろがあるということでしょう。過去に移籍のウワサが出ていたプレミアリーグ(イングランド)のウエストハムやフラムも田中を追いかけていて、この冬の市場で再び興味を示していると聞いています」
モテ期到来の田中に続き、6月末に契約満了となる浅野の周辺も騒がしくなっているという。前出のサッカーライターが事情を説明する。
「ボーフムは財政状況が厳しく、こちらも残留は希望しないと見られています。今季の浅野はインパクトを残しました。第22節のバイエルン戦では、GKノイアーから強烈な一撃でゴールを奪い、ジャイアントキリングに貢献しましたからね。2年前の試合後のインタビューで、観戦に訪れていたドイツ代表のハンジ・フリック監督(当時)について聞かれ、『ハンジ・フリック? 何、それ?』と答えてバズったこともありました。Jリーグの古巣サンフレッチェ広島も復帰要請を出していますが、実力でもキャラクター的にもドイツ国内で人気銘柄で、本人も欧州を希望していることから、ドイツを中心に優勝争いができるチームを最優先に探すことになるでしょう」
ただし、移籍先の選択肢を間違えて出場機会が激減すれば、し烈な日本代表のメンバー争いから後退する可能性が高い。プレーオフの激闘を終えても、2人とも落ち着かないシーズンオフを迎えることになりそうだ。
(風吹啓太)