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「脊髄梗塞」で歩行困難になった「ひろみちお兄さん」が目指す「第二の長嶋茂雄」という道

 まさか、あの「たいそうのおにいさん」が…。

 NHK Eテレの幼児番組「おかあさんといっしょ」の10代目「たいそうのおにいさん」佐藤弘道が「脊髄梗塞」を発症し、歩行困難になっていることが明らかになった。本人の公式サイトでは当面の間の活動中止が発表され、直筆メッセージが公開された。

 ひろみちお兄さんを病魔が襲ったのは6月2日。研修会指導に向かう飛行機内で、体調が悪化したという。この脊髄梗塞という聞きなれない病名は、脳梗塞と同じく神経組織に血液を送る血管がなんらかの原因で詰まり、脊髄の神経組織が壊死してしまう難病だ。確定診断にはMRI検査を要するため、早期発見が難しい。新規患者数は年間2000人ほどと報告されているが、確定診断されていない脊髄損傷患者もいるとみられる。

 脳梗塞は高齢者に多いイメージだが、脊髄梗塞はひろみちお兄さんのような50代、40代で発症することがある。高血圧や糖尿病、高コレステロール血症が原因で進行する動脈硬化と大動脈瘤、大動脈瘤破裂を起こし、脊髄の血管が詰まるのだ。

 さらに今の季節、特に恐ろしいのが、気温上昇に伴う脱水症状や低血圧、心機能低下に伴う不整脈。大きな血栓が太い血管を詰まらせる高齢者の脳梗塞に対し、未就学児童や小中学生、高校生、大学生やアスリート、屋外での作業従事者や外回りのサラリーマンでも、小さな血栓が脊髄の細い血管を詰まらせて、脊髄梗塞を起こすことがある。高温で疲れた体を休める日が少ない今年は特に、適度な休養と水分補給が必要だ。

 ちなみに、ひろみちお兄さんが脊髄梗塞を起こした前日に、イベントで訪れた群馬県内は前橋市で27.8度、桐生市で28.6度の最高気温を記録していた。ひろみちお兄さんは、直筆メッセージの中で、こう綴っている。

〈脊髄梗塞は残念ながら有効的な治療法が無いことは知っています。今は全く歩けません。リハビリでどこまで回復するか分かりませんが、現実と向き合い、今出来ることを一生懸命に行い、また皆様にお会い出来る日を楽しみにしております〉

 ひろみちお兄さんが目指すべき「偉大な先人」がいる。2004年に脳梗塞で倒れたものの、超人的なリハビリで2021年の東京五輪開会式「聖火リレー」に参加した、ミスターこと長嶋茂雄氏だ。

 長嶋氏は脳梗塞発症後、バットをダンベルに持ち替えて、残された筋力を鍛えるパワーリハビリテーションに邁進。ミスターを神と仰ぐ中高年の脳梗塞患者、同じリハビリ病院でリハビリに励む患者に勇気を与え、リハビリ用トレーニングルームはミスターのパワーリハビリを一目見ようと、超満員になる「伝説」を残した。

 たとえ病気で障害が残っても「家族のために社会復帰したい」「生き甲斐は失いたくない」「男らしさは失いたくない」などの理由でパワーリハビリを希望する中高年患者は多いのだが、その指導者が少ないことが課題になっている。

 一方で今年の出生数は60万人と見込まれるなど少子高齢化が進み、子供の体操教室は新型コロナの影響で閉鎖や倒産に追い込まれた。子供のスポーツ関連市場は困難に直面しており、もしかするとひろみちお兄さんも人知れず無理がたたっていたのかもしれない。

 医学博士の肩書きを持ち、名城大学薬学部の特任教授でもあるひろみちお兄さんなら、長嶋氏や車いすテニスの国枝慎吾氏のような、パワーリハビリやパラスポーツに励む人たちの「目標」「指導者」として申し分ない。突如として襲われた悲劇と試練を第二の人生のチャンスに変えるポテンシャルがあると、筆者は信じている。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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