11年の震災直後、長嶋氏は被災した岩手県宮古市に、たくさんの鉢植えとともに「がんばれ宮古」と書いた色紙を贈呈した。
まるで利き手でそうしたように、左手で書かれた勇気を与える力強い文字。レプリカが市内のいたるところに貼られている様子が、番組内でも紹介されている。その文字について語る地元民は涙ぐみながら、「長嶋さんも頑張っているんだから自分たちも」と決意を新たにするのだった。
黒江氏も昨年、色紙にサインをもらったという。
「現役時代にサインをお願いすると、『あと何枚書くの? もう100枚?』なんて言いながら、顔はこちらに向けて、チャチャチャチャ~と書いていた。ところが、昨年もらったサインは、左手で丁寧に、一文字ずつきれいに書いてくれました」
数々の栄光を手にしたスーパースターが、70を超えてなお必死に全力で病と闘い続けているのである。
深澤氏にも、その執念が伝わってきた。
「昨年、ご自宅にうかがった時に、私はアナウンサーのトレーニングでやる50音の発声練習について話しました。母音は5つしかないわけだから、5つの口の開き方しかないんです、と。すると、『やってみて』と言うので見本を見せると、長嶋さんは姿勢を正して、部屋中に響き渡る声で『あ、い、う‥‥』と最後までやった。その貪欲さに驚きましたね」
ここまで努力を惜しまない、その原動力は何なのか。
巨人関係者が話す。
「長嶋さんは野球人として、現場復帰しようという意欲が半端ではない。もちろん1年間、監督として指揮を執るというのは無謀かもしれないですが、球団もその熱意には応えたいので、『1日監督』でも何でもいいので、復帰舞台を用意する準備をしているんです」
何としても復活したい。長嶋氏の根底にあるものを、深澤氏はこう話す。
「長嶋さんは、昔のイメージを捨てて病状が完治しないまま表に出てきた。相当な勇気がいったはずです。もちろん、皆が待っているということもあるかと思います。しかし、やっぱり本人が外に出ることが好きなんだと思う。長嶋茂雄という存在を別の言葉に置き換えるならば、日本人にとっての『太陽』ですから」
前出の黒江氏も、長嶋氏の復活にこんなエールを送る。
「ミスターの野球に対する取り組みは常にプラス思考でした。つんのめっても、クソボールでも、タイミングを合わせて打つ。人生も同じで、生涯現役と思っているのでしょう。そして、僕はぜひとも元気な姿で、国民栄誉賞を受賞してほしいと思っているんです」
壮絶なリハビリに耐えた、長嶋氏の完全復帰を信じたい。