番組の最後で長嶋氏は、
「もう一度走りたい」
と、現在の具体的な目標を口にした。
番組にも登場した、「V9時代」の遊撃手でプロ野球評論家の黒江透修氏は、長嶋氏の「さらなる目標」についてこう語る。
「去年春の宮崎キャンプで挨拶すると、左手でものすごい力を込めて握手されたので、『ミスター、それだけ左手が強ければ、あとはちょっと右手を添えればゴルフできますね?』と話すと、うれしそうに『ホォ、ホォ、ホォ』と笑っていました。とにかくミスターはゴルフが上手で、大好きですから。去年の夏には右指も動くようになったとマネジャーから聞きましたし、今年あたりはもうゴルフができるんじゃないですか」
黒江氏は番組を見て、「ついにここまで来たのか」と、長嶋氏の復調気配が感慨深かったと話す。
「5年ほど前に、六本木でフグを一緒に食べた時は、左手を器用に使ってはいるものの、どうしても細かい所作で右手を使う時は、スタッフがサポートしていましたからね」(黒江氏)
それにしても、長嶋氏が病で倒れた時は、誰しもが信じられなかった。黒江氏が言う。
「ウソだろって思いましたよ。ミスターは運動を欠かさなかったし、そもそも、汗をかかなきゃいられないタイプだった。現役時代から定宿の食事で肉料理を出されても『消化に悪い』と、別注で煮魚を頼んでいたほど。お酒を飲んでも1杯です。それだけ健康に留意していましたからね」
深澤氏も、長嶋氏の健康管理に舌を巻き、「ひょっとしたらこの人は死なないのでは」と思っていたという。
「今でこそポピュラーになりましたが、昭和30年代の後半で、故・亜希子夫人と一緒に『プロポリスがいいみたい』と話していたほど気を遣っていました。現役時代、試合後に一緒に長嶋邸へ帰宅することがたびたびありましたが、亜希子さんが用意しているのは、白身の魚や、豆腐、お漬物といった、実にヘルシーな食事でした」
もっとも、長嶋氏はたいていの場合、食事に手をつけることも忘れ、庭に敷かれた人工芝の上で素振りに没頭していたという。
「今日はいいフィーリングだから」
こう口にする長嶋氏は、15分で素振りをやめることもあれば、深夜2時頃まで4時間近く黙々とバットを振り続けることもあったという。
そもそも選手時代の長嶋氏は、試合後にシャワーも浴びず15分足らずで球場をあとにしていた。その理由を長嶋氏はこう話していたそうだ。
「シャワーやお風呂に入ってしまうと、試合の緊張感が抜けてしまう。そのままのフィーリングで練習しないと身にならないんだ」
先のセリフ「リハビリはウソをつかない」の原点は、「練習はウソをつかない」という現役時代からの信念にあるようだ。