昨年末、「プロ野球にtoto拡大」という見出しが産経新聞の1面を飾った。20年の東京五輪に向けて事業資金を集めるべく、政府・自民党が検討しているというのだ。いざ、実現となれば、野球ファンにとっても一獲千金のチャンス到来となりそうだが‥‥。
サッカーファンに人気のスポーツ振興くじの「toto」は、最高6億円の「BIG」を中心に売り上げを伸ばし、14年度の総売り上げは前年度比約220億円増の1080億円に達している。スポーツ紙デスクが解説する。
「『toto』を運営する文部科学省所管の独立行政法人『日本スポーツ振興センター』は東京五輪のメイン会場となる新国立競技場の建設・運営も担当しており、総事業費の捻出に苦慮しています。その打開策として政府・自民党が好調な売り上げの『toto』に目をつけ、プロ野球への拡大を検討し始めたのです」
19年の竣工を目指す新国立競技場だが、昨年末に政府はその総事業費を1692億円と決めた。ところが、円安による資材高騰の影響から、建設費の高騰が懸念されている。自民党関係者からは「総事業費は2000億円を超える」という声も聞かれるほどだ。スポーツ紙デスクが続ける。
「現段階で500億円程度を『toto』の収益で賄い、残りを東京都と国が負担するとしているだけに、新たな収益を探り、それを建設費に回すことで、何としても公費の負担増を抑えたいというわけです。12年には『toto』の拡大に向けて、超党派のスポーツ議員連盟が、プロ野球や大相撲、海外サッカーの導入を検討した経緯があり、議論を見直す動きが本格化しているのです」
すでに、自民党内からは具体的なシステムも論じられている。
「プロ野球はJリーグと違って、全12チームと少ないが、シーズン中はほぼ毎日、試合がある。そこで1週間のうち2日間12試合の勝ち・負け・引き分けを予想するという案があるそうです。推奨している関係者からは『これなら野球ファンに人気の交流戦で話題を呼べる』という声も聞かれます。そして、13試合の予想で最高1億円の『toto』と、1等で約1000万円の『BIG1000』の中間的なスポーツくじになるとアピールしていました」(自民党関係者)
1等の当選確率はサッカーの「toto」で理論上は約160万分の1、「BIG1000」は約18万分の1だ。プロ野球の「toto」が前述のシステムで運用されれば、53万分の1となる。つまり、
「1等の最高当選額は1点の購入金額で変わりますが、3000万円から5000万円を想定しています」(自民党関係者)
プロ野球の熱戦を12試合楽しんで、5000万円をゲットといきたいところだが‥‥。01年の「toto」導入時に参議院議員として審議した経験を持つ野球評論家の江本孟紀氏が言う。
「『toto』開始時に、野球は対象外とするという結論を出した。チームで勝敗を争う競技とはいえ、局面では投手と打者が対峙する個人スポーツでもある。それだけ八百長が入り込む余地があるためです。その前提を知らない政府関係者が勝手に話すのもおかしいが、球界の意向をまずは聞くべきでしょう」
球界には苦い経験がある。69年に発覚した「黒い霧事件」だ。やはり賭けの対象となれば八百長が危惧されるのは当然だ。スポーツジャーナリストが話す。
「複数の試合を対象にすることで、八百長問題はクリアできるとは思いますが、サッカーと違って、同じ時刻に終わらないのが野球です。ストッパーの投手は賭けの結果を一身に受けることも予想されます。選手に負担をかけることを球界は嫌うので、『野球toto』導入までには多くのハードルがあります」
とはいえ、戦後の一時期、「野球くじ」は存在した。ましてや、東京五輪は日本をあげてのビッグイベントである。背に腹代えられない事情があるとなれば、「野球toto」実現も夢ではないかも‥‥。