ヤンキースをFAになった黒田博樹投手が、8年ぶりに広島に復帰しました。報道によれば、メジャー球団からの約20億円級の破格オファーを蹴って、年俸4億円で古巣に戻ったということです。
男気あふれる決断に、カープファンは期待を膨らませて新年を迎えたことでしょう。昨年は「カープ女子」という言葉が流行語になりましたが、昨オフの流れを見ていると、勢いがさらに加速する雰囲気です。
黒田の加入はチーム全体に活気を与えますし、特にエースの前田に強い刺激を与えることでしょう。前田は新人時代の07年の1シーズンしか黒田とはかぶっていませんが、当時は二軍選手で黒田は雲の上の存在。ところが、今では彼が押しも押されもせぬエースです。元エースに勝ち星で負けるわけにはいかないと期するものがあるはずです。
昨年の前田の成績は11勝9敗、防御率2.60。数字だけを見るとまずまずですが、8月以降は2勝5敗と失速。チームも勝負どころの9月以降に12勝16敗と負け越し、3位となりました。エースの1つの黒星はただの1敗以上に響き、優勝争いから脱落してしまったのです。
今季の前田は「負けを背負える投手」が加わったことにより、プレッシャーが軽減するはずです。追い風にうまく乗れば、1人で2桁の貯金を作ってもおかしくありません。黒田は自分のことよりも、フォア・ザ・チームで右腕を振るうはずです。たとえ10勝10敗で終わったとしても、その1敗は前田や他の投手を楽にする1敗となるのではないでしょうか。つまり、1年間先発ローテを守るだけで価値があるのです。チームにとっては1プラス1が2ではなく、相乗効果で3にも4にもなる強靱な2つの柱ができました。
野手でも8年ぶりに広島に戻った注目の選手がいます。新井貴浩内野手です。年俸は昨年の2億円から10分の1となる2000万円と報じられています。昨年は、主に代打で94試合に出場し、打率2割4分4厘、3本塁打、31打点という不本意な成績でした。出場機会を求めて今オフ、阪神を自由契約となったのです。
もちろん、古巣でも定位置を約束されているわけではありません。一塁はエルドレッド、栗原らとの厳しい競争が待っています。新井自身、ゼロからスタートするつもりで野球に取り組むはずです。黒田がチームのことだけを考えて投げるのとは対照的に、新井は自分の世界に没頭してバットを振ることになります。1年のトータルで考える余裕はなく、一瞬の勝負を積み重ねていくのではないでしょうか。結果的にはその姿勢がチームに好結果をもたらすはずです。
年齢的な衰えを指摘する声もありますが、私は彼の体の強さからすると、まだまだレギュラーを張ることができると見ています。阪神球団に身を置く立場としては複雑ですが、1人の野球人としては、甲子園でヒーローインタビューを受ける姿を見たいものです。タイガースでの悔しさをバネにもう一花咲かせることを陰ながら願っています。
菊池、丸の伸び盛りの「菊丸コンビ」は他球団の脅威ですし、黒田、新井の復帰でますますベテラン、若手のチームバランスがよくなりました。緒方新監督の下で、91年以来のリーグ優勝を狙えるだけの戦力はそろったと言えます。阪神は昨年、わずか0.5ゲーム差だけ上回る2位でした。今年も赤ヘルには厳しい戦いを強いられそうです。