「新庄劇場」は健在だった。代替日(6月19日)として行われた甲子園球場でのセ・パ交流戦ラストゲーム後、敗れた北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督は、
「まあ、終わったことは仕方ないので」
とこぼしていた。しかし、悔やんでいたのは、サヨナラ負けに繋がったバッテリーエラーだけではなかったようだ。
「球場がいちばん盛り上がったのは『代打・清宮』が告げられた時でした」(在阪記者)
清宮幸太郎が代打起用されたのは、7回表の攻撃でのこと。スコアは0-1、二死二塁の場面で、同点に追いつくライト前ヒットを放ったのである。
前打者が送りバントを決めた時、マウンドにいたのは左の桐敷拓馬。ところが新庄監督は、左打者の清宮を送り出した。
一打同点、一発が出れば逆転。そんな試合の明暗を分ける大事な場面で、新庄監督はあえて「左対左」の不利な勝負に挑んだのだ。
この時点でベンチに残っていた右打者は野村佑希、レイエス、清水優心。同じ「左対左」にはなるが、目下、売り出し中の田宮裕涼も残っていた。なのに、新庄監督は清宮を選択した。
「清宮は対左投手の方が、打率が少し高いんです」(パ球団スコアラー)
とはいっても、清宮が1軍昇格したのは6月11日。ケガで出遅れたため、ここまで49打席にしか立っていない。新庄監督のカンだとすれば「お見事!」のひと言しか出ないが、チーム関係者はこう反論していた。
「新庄監督の直感? そうとは言い切れません。桐敷の球速、角度などを見て、代打待機していたメンバーの中で最も適しているのは清宮だと思い、選択したのです」
スタンドから見ていると「左対左、復帰して間もない清宮にチャンスを」という「演出」でしかなかった。しかし新庄監督は「清宮が左投手に強いというデータ」をインプットし、相手投手の状況を見て代打起用したのだ。
田宮、交流戦史上最高の打率を残した水谷瞬、スタメン三塁の座を射止めた、本来は捕手の郡司裕也の躍動。この日はドラフト1位・細野晴希が先発し、2位の進藤勇也がスタメンマスクを被った。これまでは新庄監督がひらめいても、それを実践する力が若手選手にはなかったが、ようやく「役者」が揃ってきた。「新庄劇場」はこれからが本番だ。
(飯山満)