試合時間短縮を目的として、メジャーリーグなどで採用されている「ピッチクロック」という言葉を聞いたことがあるだろう。投手が打者に投球するまでの時間、間隔を制限するという決まりである。これがもし、次の2026年WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でも適用されるとしたら…。
日本プロ野球選手会と日本野球機構(NPB)の事務折衝が、6月19日に行われた。WBCでの「ピッチクロック」について、選手会の森忠仁事務局長が「NPBも一緒に反対してほしい」と要望したのだ。このピッチクロックとそのルール採用の是非をアメリカ側に聞いてみたところ、意外な答えが返ってきた。
「ピッチクロックが採用された2023年シーズン以降、メジャーリーグの試合展開が大きく変わった印象はありません。試合時間の短縮は野球界の永遠のテーマですが」(アメリカ人ジャーナリスト)
背景にあるのが「試合時間が読めない」とするテレビ放送側の「要望」、そしてあまり野球に興味のない人たちから必ず返ってくる「試合時間が長い」という声だ。
メジャーリーグで採用された2023年は、15秒だった投球間の制限時間が18秒に改められたが、こうしたアメリカ側の反応を聞いていると、感情的になっているのは日本だけなのか…という気がしてくる。先のアメリカ人ジャーナリストが内情を明かす。
「ピッチクロックと『投手のケガ』の因果関係が懸念され、調査されています。十分な準備が整わないまま投球する必要が出てくるからだ、と。アメリカではピッチクロックのルールに違和感はなくなってきたようですが、選手たちに好きか嫌いかを聞くと、ほとんどの選手が『嫌いだ』と答えます」
それでもメジャーリーグ機構がWBCでのピッチクロックを採用する方向へと進んでいるのは、テレビの放送時間の問題だけではなさそうだ。アメリカ特派記者が言う。
「現在のDH制で得をしているのは大谷翔平だけ、と言っても過言ではありません。ルール変更により、大谷はDH兼投手の1人2役で試合に出ることが可能となりました。リハビリが順調にいけば、2026年大会は二刀流で臨めます」
今季の大谷はトミー・ジョン手術の影響により、「打者」だけで出場している。
日本以外の海外代表チームは「大谷がいれば、日本は1人多く選手登録しているのと同じ」と解釈しているそうだ。
WBCでのピッチクロック採用に本気で反対するなら、日本は「大谷ルール」と呼ばれる現DH制ではなく、「DHと投手を兼務できない昔のDHでかまわない」と交換条件を出す必要がありそうだ。カギを握るのは「大谷翔平」なのである。
(飯山満)