交流戦は楽天が13勝5敗で優勝した。突出して活躍した選手はいなかったけど、粘り強く、接戦を拾っていった。打線では、交流戦2戦目から小郷裕哉、村林一輝の1、2番を固定できたのが大きかった。この2人、若いと思っていたが、選手名鑑で調べると、27歳と26歳で、そこまで若くない。そして、それぞれ18年と15年のドラフト7位入団なんやね。僕も阪急のドラフト7位。たたき上げの選手として応援したくなった。
立正大出身の小郷はパンチ力があるし、勝負強さが光る。6月5日の阪神戦(甲子園)では、9回2死、守護神の岩崎から右翼席へ逆転2ラン。僕もスタンドで見てたけど、「まさか」やった。阪神ファンの「あと一人コール」が悲鳴に変わった。待ってましたとばかり、内角のストレートを力強く振り抜いた。いつもの浜風と違って、追い風やったが、それにしても驚かされた。昨年まで規定打席に到達したことがないのが不思議なぐらいや。
2番の村林はショートの守備がうまいし、打撃もしぶとい。何で今まで1軍に定着しなかったんやろか。野球では無名の大阪府立大塚高校の出身。球団としたら「活躍したら儲けもの」ぐらいの感じでドラフト7位で取ったんやと思う。
プロ野球の世界は、ドラフト1位はもちろん、2、3位ぐらいまでは、球団が期待をかけているから、チャンスを多くもらえる。下位で入った選手は実力をつけていっても、チャンスが回ってこずに、やめていく選手が多い。毎年、新しい選手が入ってくるし、監督はどうしてもそちらの方に目が行きがち。僕も阪急で2軍監督を経験したからわかるが、1軍の監督がすべての選手に目を届かせることはできない。1軍戦力で補充が必要な時も、2軍監督に要望を伝えて、推薦してもらった2、3人の選手から選ぶことになる。
ドラフト下位で入団して、1軍に定着しないまま5年も経つと、春季キャンプから2軍スタートとなるのが普通。それよりも1、2年目の若い選手に期待をかけるから。だから、村林のように高卒7年目でレギュラーのチャンスをもらえるのは異例のこと。今年、1軍の監督に就任した今江監督が、2軍のコーチ時代に見ていて、潜在能力の高さを見抜いていたんやろうと思う。
そういえば、交流戦MVPに輝いた日本ハム・水谷瞬も、ソフトバンクのドラフト5位入団で、現役ドラフトで移籍した選手。交流戦史上最高打率の4割3分8厘は見事やった。新庄監督との出会いも大きかったと思うが、ソフトバンク首脳陣は、どこに目をつけていたんやと言いたくなる。
前年までの5年間、1軍経験がないというのが信じられない。突如、別人のように打撃がよくなるというのはない。チャンスさえもらえれば、光るものは見せられたはず。ソフトバンクは4軍まであり、その上、FA補強でフタまでしてしまう。昨年も現役ドラフトで阪神に移籍した大竹がブレイクした。まだまだ眠っている才能がゴロゴロいると思う。
運も実力のうちと言うけど、小郷、村林、水谷の3人は巡ってきたチャンスをしっかりつかんだ。今後はこれを手放さないこと。3年やって初めてレギュラー。ケガせずいいプレーを見せること。自分と同じようにチャンスを待っている選手がいるんやから。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。