名越 日本はバブル崩壊から失われた30年に突入しました。中国も同じ道を歩みますか。
柯隆 日本よりも深刻になると思います。地方政府に危機が飛び火するからです。すでに、収入源だった借地権の払い下げがなくなり、公務員の給与カットが起きています。次は年金カットも懸念されていて、そうなれば暴動になる危険もあります。
名越 ゼロコロナ政策の時も一部で反政府デモがありました。あれは学生中心でしたが、国民的な動きになるリスクもあるんですね。
柯隆 はい。マンションが完成しないため、入居できない人によるデベロッパーへの抗議活動が増えています。
名越 完成していないなら、返済の必要もないのではないですか。
柯隆 それが違うんです。日本は新築マンションを買う際、最初は手付けだけを払い、建物完成後、正式な契約をしてローンを組みますが、中国は手付けと同時にローンが組まれ、返済が始まります。仮にデベロッパーが逃げて建物が完成しなくても、ローンからは逃げられない。これが事態を深刻化させる要因です。
名越 僕はロシアに長年住んでいましたけど、ソ連時代、土地は国有でした。でも90年代に民営化され、ある程度お金を払えば私有することが認められた。中国も私有を認めれば、需要が生まれると思いますが。
柯隆 土地の私有を認めた場合、共産主義が根底から崩壊するので無理でしょう。中国は土地が国有ということもあり、固定資産税を取っていません。仮に不動産に税金をかけると、多くの不動産を所有する共産党幹部や、高級官僚などの富裕層が一番困ることになります。
名越 結局、今後も政府がコントロールして、市況の回復を待つしかない?
柯隆 中国政府もそうしたいと考えているようです。先頃も3000億人民元を投入して、在庫になっている不動産を買い取らせると発表しましたが、デベロッパー1社の債務が兆単位なので焼け石に水です。習近平は事態の深刻さを理解しているとは思えません。
名越 現政権は、一握りの人たちが密室で物事を決めているようにみえます。
柯隆 おっしゃる通りです。誰も怖くて異論を唱えられなくなっているのです。実は日本のバブル崩壊を研究した人たちがいるんですけど、彼らもしゃべらない。だから、この先が恐ろしいことになる危険があるわけです。
ゲスト:柯隆(か・りゅう)1963年、中国・南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大学卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)、長銀総合研究所入所。98年、富士通総研経済研究所へ移籍。06年より同研究所主席研究員。18年、東京財団政策研究所に移籍、現在、同研究所主席研究員。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授を兼務。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。