およそ1カ月後に迫ったパリ五輪。男子陸上でひときわ目立つのが、あの最速男ウサイン・ボルト超えと言われるアメリカの短距離選手、ノア・ライルズだ。現地時間6月23日に行われたアメリカのパリ五輪代表選考会、準決勝のレースで、脇ポケットから「遊戯王」のカードを取り出すパフォーマンスを見た人はいるだろう。
日本のアニメ好きで知られるライルズは今年3月「ドラゴンボール」原作者の鳥山明氏が亡くなった際に、公式アカウントに追悼文を掲載。鳥山氏を偲ぶように今シーズン、カメラマンの前で孫悟空のカメハメ波ポーズをとっていた。
「遊戯王」はトレーディングカード史上最高額の9億9800万円で取り引きされたカードもある、世界的なトレーディングカードブームの火付け役となった日本のコミック、アニメだ。ライルズが代表選考会で取り出した遊戯王カード「封印されしエクゾディア」は国内のフリマサイトで、一部がめくれた中古品でも2万円から5万円で取り引きされている。金メダルに最も近い男が5万円のカードでご満悦になるのだから、なかなか庶民的なスーパースターだ。
一方で、価格高騰によって、トレーデングカード専門店での白昼強盗、窃盗被害が相次いでおり、今年だけでこれまで15件以上の被害があった。子供が1袋500円の定価で買った「ポケモンカード」の中に、幸か不幸か時価数千円のレアカードが紛れていると、他の子供に盗まれるトラブルや、刑事事件に発展することも。純粋にポケモンカードゲームを楽しみたい小学生が遊べない、カードを買えない状態が続いていた。
ところが今春から、ポケモンカードの販売価格が急落。特に5月以降、1日で売値を20万円も下げたものもある。1年前に300万円で売買されていたカードが、現在は4分の1の75万円で取り引きされているのだ。
極め付きは、2年前にYouTuberのヒカキンが5000万円で買った、初代ポケモン御三家の「かいりき リザードン」。当時、ヒカキンは家宝にすると話し「転売する気はない」としていたが、最近ではネットオークションで新品が300万円から400万円で売りに出されている。子供たちの手にようやくポケモンが戻ってきた…とまでは言い切れないが、今までがバブル、異常だっただけなのだ。
なお、投機目的でトレーディングカードを買った人はここで気落ちせず、今急いで売り切るか、寝かせておくか、よく考えた方がいい。トレカは嵩張るものではないし、ホログラム仕様であったり、レアキャラはいずれまた値段が上がる。
メジャーリーグだけでなく、バレーボールやバスケットボールのトレカは、パリ五輪の日本代表の活躍次第で大化けする可能性がある。
遊戯王カードも、ゲームボーイソフトの付録で誰でももらえたカードも、今では5万円から8万円の売り値がついている。ライルズがパリ五輪の男子陸上100メートル決勝で別のカードを「召喚」、大会新記録を更新しようものなら、遊戯王カードバブルが再来するかもしれない。
(那須優子)