1980年代後半、「お昼のワイドショー」(日本テレビ系)には週一で「テレビ公開捜査」なるコーナーがあった。タイトルの通り、内容は蒸発や失踪、家出等々、突然姿を消した身内を探すため、家族が顔出しで登場するというもの。テレビカメラを通じて「家族みんなで待っているから、早く帰ってきて! 連絡だけでもして!」と訴えるのだ。
番組での呼びかけによって本人が見つかった場合は、なんと当事者同士をスタジオで面会させ、その場面を生放送で流すという、まさに昭和ならではの演出で高視聴率を得ていた。
とはいえ、これはあくまで昭和の話…と思いきや、なんと2年前の2021年5月28日、「バイキングMORE」(フジテレビ系)に、失踪した人物を心配する家族が電話で生出演したのだ。
「もし近くにいらっしゃる方がいらっしゃたら早く連絡してほしいですし、家族、友人みんな待っているので、早く帰ってきてほしいです。連絡ください」
涙声でそう呼びかけるシーンが放送され、大反響を起こしたのである。
というのも、失踪したのは、中日ドラゴンズの門倉健投手コーチ(2軍担当)であり、涙ながらに呼びかけたのはその妻だったからである。スポーツ紙運動部記者が振り返る。
「門倉コーチは就任後、横浜の本宅に妻らを残して、次男とともに愛知県で暮らしていましたが、5月15日の練習を無断欠席。球団が家族に連絡するも、家族も本人と連絡が取れず、愛知県の家には携帯電話と財布が残されていました。事件に巻き込まれた可能性があることから翌16日になり、家族が捜索願を出すことになったのです」
ところが失踪から5日経った5月20日、門倉コーチから球団に「5月15日をもって、一身上の都合により退団させていただきます」と書かれた退団届が送られ、妻宛にも同様の手紙が。どうやら事件性はなく、借金あるいは愛人とのトラブルによる失踪、との報道が噴出することになる。
本人は7月28日に開設したYouTubeで「私の不徳の致すところ」と神妙に頭を下げるも、結局、失踪の真相は何も語らずじまい。
その後、北陸地方の海の家で働いている姿がキャッチされたり、近畿地方で行われた少年野球大会の始球式に登場するなど、不可解な行動が次々と明らかになった。だがそれでも、失踪騒ぎの原因が本人の口から語られることはなかった。野球ファンのみならず、世間を大いに揺るがせた、謎の失踪劇だったのである。
(山川敦司)