「デーブ解任、雄星に暴行」
スポーツ紙各紙にそんな大見出しが躍ったのは、2010年7月23日だった。当時、西武の大久保博元2軍打撃コーチが、ルーキーだった菊池雄星とトラブルになったのだ。
記事によれば、大久保コーチが菊池に対し「不適切な行為を行った」疑いがあることから、球団は大久保コーチを解任、球団本部長付けにしたというのだが、
「日ごろから菊池に対する大久保コーチの当たりが強かったことは、担当記者なら誰もが目にしていた。ただ、暴力行為となれば、話は別です。報道陣からの『不適切な行為とは、暴力行為なのか』という質問に球団関係者が否定しなかったことで、ドラフト1位ルーキーへの暴行事件として、上を下への大騒ぎになりました」(スポーツ紙デスク)
では、両者の間にいったい何が起きたのか。スポーツ紙デスクが続ける。
「プロ野球界では監督やコーチ、選手間で、練習に遅刻したり、試合中のエラー、見逃し三振などした場合、罰金を徴収することがあります。それがコーチや選手との飲食費や、オフのゴルフコンペ資金に使われる現実があり、これは12球団のほとんどで行われていること。ところが大久保コーチが打撃担当になってから罰金額の相場が急騰し、選手から不満の声が上がっていたそうです。ある時、それが球団にバレた。大久保コーチは食事会をキャンセルするようになっていた菊池が漏らしたのではないか、との疑念を抱き、複数の選手の前で『チクったのはお前だろ!』と胸ぐらをつかむなどの行為に及んだといいます」
ただ、球団が本格的な調査に乗り出したのは、大久保コーチ解任を各スポーツ紙が報じた日。つまり本格調査開始前、すでに解任されていたことになるわけだが、その背景を前出のスポーツ紙デスクはこう推察した。
「大久保コーチは2008年の渡辺久信監督就任とともに、1軍打撃コーチとして西武に復帰した。この年は巨人を破って4年ぶりの日本一に輝いたものの、日本シリーズ終了後に、女性への傷害容疑で書類送検されるというスキャンダルが発覚。球団は『コンプライアンスの徹底』を謳う親会社の手前、大久保コーチの現場復帰に二の足を踏んでいました。しかし、渡辺監督からの熱心な要請があり、さらには2軍打撃コーチに適任者が見つからなかった。そこで『降格』という形での現場復帰となったと言われています」
そんな状況下で起こった暴行事件である。西武は7月29日、大久保コーチの解雇を正式に発表した。
ただ、捨てる神あれば拾う神あり、とはよく言ったものだ。その後、楽天コーチ、監督を経て、巨人で打撃コーチに就任したことは、プロ野球ファンなら知っていることだろう。
自身のYouTubeチャンネルでは「暴言はあったが、暴行はなかった」として、菊池と和解していたことを告白。球界での活躍もさることながら、お騒がせぶりでもその名を刻むことになったのである。
(山川敦司)